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GAKUストラテジー戦記 GAKU Presents
GAKUスト戦記外伝

 最後にラスベガスに行ったのは2006年3月だから、もう2年くらい前になるだろうか。

 最新ホテルが立ち並ぶ今となっては、その客室やファシリティなどについて何も特筆するところはないのだが、老舗カジノの風格漂う雰囲気が好きでずっと定宿にしていたのがミラージュだ。しかし、そこで予期せずしてカジノの現場スタッフから猜疑心溢れる目で見られ続けた挙げ句、パンク寸前のマイナスUS$25,000まで追い込まれた辛い経験があった。(そのときの詳細にご興味のある方は、以下のリンクの GAKU スト戦記をご参照いただきたい)

 >>>■2006年第4戦@ラスベガス(MIRAGE)

 このときの経験を境に、私の中で GAKU ストラテジーへの考え方が大きく変わっていった。システム上の軽微な変更はあるものの、それ自体は現在も基本的に変わってはいない。変わったのはそれを操る自分自身のことだ。
 カジノでのメンタル・コントロールの重要性は論を俟たない。肉体的疲労や精神的疲労そして思考の麻痺や希望の病理など、メンタル・コントロールへのマイナス因子は数多く存在し、カジノという現場ではそれらをさらに増幅させる因子も存在する。
 プレイヤーはもともとハウスエッジを背負っている訳だから、本来マイナス思考に陥るのは当たり前の話なのだろう。だが私の場合、これを振り切らないことには決して成績がついてこないということを経験則から思い知らされてきた。
 何をやっても調子の良い時はあるものだが、そればかりを期待し頼りにしていたのではトータルで負けてしまう。調子の悪いときにこそ、如何にしてそれを凌ぐかが重要であり、そしてそのためにはメンタル・コントロールが不可欠だ。

  GAKU ストラテジーを取り入れる前の自分は、負けて負けて負け続けて、懲りずに何度も痛い敗戦をくり返していた。たまに勝てばすぐ図に乗り、連勝すればさらに慢心し、泣きながら反省したはずのことは綺麗さっぱり忘れてしまう。するとじきにもっと手痛い敗戦がやってくる。そのたびに後悔しながら自分を責めていた。
 今思い返してみても、負けることよりも後悔することの方がずっと辛かった。そんな経験の中で、負けても後悔だけはしないことを突き詰めていったのが GAKU ストラテジーというシステムだった。

 ブラックジャックは忍耐のゲームだとずっと思っていた。しかし調子の悪いときに我慢して耐えることには限界がある。修行僧でもないのだから、自ら望んでそんなことはしたくない。到底できないと思ったし、第一それに楽しくない。

 そこで発想を転換させた。開き直って最初から我慢しないことにしたのだ。今まで正面から受け止めていたマイナス因子を、受け止めずにスルーしてただ受け流す。いつもどんなときでも楽観主義でいよう。些細なプライドや見栄があるから悔やんでしまうのだ。そもそもカジノではそんなものなど要らない。あれこれ気にするよりも、鈍感なくらいが丁度良い。捨てられるものはとっとと捨てて、実を取ることを考えよう。

 だが、言うは易く行うは難し。具体的にどうしたら良いのか分からず、その後も試行錯誤が続いていた。

 そんな折、この大苦戦していたこのミラージュで、その後の GAKU ストラテジーへの考え方を変えるきっかけとなる人物と出逢った。

 私がまだ反撃の糸口を掴めず、もがいているときのことだった。 BJ テーブルで偶然一緒になったひとりのアメリカ人プレイヤーがいた。ディーラーとのヘッズアップでプレイしていたテーブルに彼はやってきた。見た目は40代中頃、ダークグレイのスーツが似合う品の良さそうな紳士だ。「入っても良いですか?」と尋ねてくれた彼に私は好感を持った。

 彼はニューヨークでヘッジファンドの仕事をしているのだという。名前はティモシー。私は敬意を込めてティムと呼んだ。このときちょうどWBCが行なわれていたこともあり、松井選手やイチロー選手の話から気が合い、しばらくふたりで会話を続けた。
 ティムのプレイはBSに忠実で、10倍程度のベット・スプレッドだった。ラスベガスだとBSプレイヤーは珍しくないが、フラットベットに近いプレイヤーが大半だ。しかしティムは押すところは押し、引くところはしっかりと引くベッティング・スタイルを持っていた。見ていて実に小気味好い。ティムもまた私のベッティングに興味を持っているようだった。

 しばらくしてディーラー交代となり、大きなお腹でユニフォームを張らせながら、アメリカン・サイズのいかにも陽気そうなディーラーがやってきた。

「やあ、みなさん。調子はどうですか?」
「あんまり良くないね」

 大きなマイナスを背負っていた私は、こう答えるのがやっとだった。しかし、ティムはニコやかにこう答えた。

「最高だよ」

 私は驚いた。ティムはこのテーブルに座ってから、ものの30分で少なくとも$3,000は溶かしている。確かに会話の中からは平静な様子だったので、余程バンクロールに余裕があるプレイヤーなのだろうとは思っていたが、たとえ強がりだとしてもなかなか言える言葉ではない。そしてその表情からもそれが自然に出た言葉だということがわかる。決して冗談や嫌みなどではない。
 プレイでは明らかに流れが悪く、手持ちのチップも減っているというのに、ティムは不思議なまでにいつも穏やかなのだ。どうしてこんな風にいられるのだろうか?私はティムのスタイルにますます興味を持った。

「ティム、今日は大分勝ってるの?」と私は尋ねた。
「 いや、ご覧の通り負けてるよ。でもそれは良いんだ。今晩は GAKU に会えて楽しいから」と彼はそう言って笑った。

 そのシューは開始直後からティムも僕も6連敗を喫していた。 GAKU ストは打たれ越しモードのミニマム$25のままだった。7ゲーム目、私のハンドは11からのダブルダウン。ディーラーはアップカード6からバストした。ティムが同席してから初めて入ったベットアップモード。それまでグリーンチップが1枚だけ置かれていた私のベットサークルに、ブラックチップ6枚のスタックが置かれた。ベットアップモードを初めて見たそのディーラーは、一瞬怪訝な表情を浮かべて「チェック・プレイ!」と声を上げた。同席のティムも少し驚いた表情を見せていた。そのゲームで私にディールされたハンドは、ディーラーのアップカード7に対して BJ だった。 

 ここからプレイヤーサイドの猛攻が始まった。ベットアップモードは入らないものの、基本モードでの連勝が続いた。ティムもブラックチップ3枚のベットで連勝を重ねていった。
 しばらくしてシューエンドを迎えると、ティムは自分のチップをよく数えもせずにディーラーに差し出した。

「もう止めるの?」と私は尋ねた。
「うん、十分楽しんだから今晩はこれで終わりにするよ。」とティム。

 ディーラーの手によってカラーアップされたチップを見ると、バイインよりも$400くらい不足しているようだった。私はどうしてもティムに質問せずにはいられなかった。

「とても簡単なことだよ。僕は$4,000勝ったら止める。$4,000負けても止める。そうじゃないときは1時間で止めるんだ。ただそれだけのことだよ。」

 ティムはカジノに来るといつもこのスタイルなのだという。時計を見るとティムがテーブルに来てからちょうど1時間経っていた。私はこのティムのシンプルなスタイルに、いやシンプルすぎるからこそ、背筋に電流が流れるような衝撃を受けた。カジノでこうもあっさり負け逃げする BJ プレイヤーには会ったことがない。言われれば確かにシンプルなシステムだが、それを実行するのがどれだけ難しいことか。

  BJ では長時間テーブルに座りっぱなしになるプレイスタイルが一般的だし、私自身も今までずっとそうやってきた。 BJ は長期戦のゲームだと信じていた。そして長時間を耐えた。耐え続けた。
 しかし一方では、Hit & Awayの有効性も過去の経験から気がついていた。大負けしてからそれを取り戻す時は、決まって無意識にそうしていたのだ。それなら最初からそうすれば良いじゃないかと考えていたのだが、このときは未だその具体的な線引きができずにいた。プレイ中の主観を排除することが GAKU ストラテジーの目的であるにも関わらず、肝心の止め時の判断は主観に頼らざるを得ないという矛盾を抱えていたのだ。

 私はこのティムのスタイルに、それまで抱えていた矛盾に対する答えを見つけた思いだった。即席ではあったがHit & Awayの基準を設け、それを実行した。その結果については最初に挙げたリンクをご参照いただきたい。
 そしてこのときティムが答えた短い言葉は、ポジティヴ思考を忘れないための私の支えとなっている。

Couldn't be better.

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