リゾカジ カジノレポート

真夏の夜の夢(澳門女王降臨) 【後編】

* マカオ 2012/ 10/ 01 Written by マカオの帝王

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■ 8月18日(土)

朝9時、目が覚める。

本来なら、5分で歯を磨き、服を着てカジノへ“出勤”している筈だが、リンちゃんが「まだ眠い」、「もう少し」、「髪を洗う」、「化粧をする」etc……とのたまう為、一人テレビを観るだけの空虚な時間が過ぎる。

『そうだ、名古屋出身のイケメンポーカープレイヤーのH君がマカオで修行中だったな。電話してみるとするか?』

H君のマカオのローカルナンバーに電話する。
繋がった。

「もしもし? マカティです。今週一杯彼女とマカオにいるのだけど、良かったらお昼ご飯でも一緒にどうかな?」

「あぁ、マカティさん、お久しぶりです。メシですか? 勿論OKです。ただ、さっきまでポーカーしていて、今ベッドに入ったばかりなので、少し遅い方が有りがたいです……」

素晴らしい!
これこそが天外魔境であるこのマカオの地で、冥府魔道を歩むことを選んだ賭博戦士の有るべき姿だ!

夕方からの“観光”のことを考え、グランドリスボア上階のカフェで午後3時に待ち合わせをする。

転寝中のリンちゃんに、「ほら、前に話したことのある、日本での会社を辞め、今はマカオに住んで毎日ポーカーを修行中のH君と、3時に会うことになったからね」と話すと、「誰?! あぁ、カイシャを辞めてポーカーばかりやてるのヒトか……、アナタ! わーかてるわね? 会うのは良いけど、その人の真似をしたらアカンからね!」
と釘を刺される。

11時、ようやく準備が整ったリンちゃんの要望で、カジノではなく“お買い物”に出動。
行く先はリスボアから徒歩5分の、ローカル色一杯の南光百貨店。

ここには安くて美味しい日本食の「三井」、有名火鍋チェーンの「徳興」、伝統的上海料理の「上海灘」と、どれも外れの無いレストランが3件も同じビルの中にあるので、マカオに来た際には一度は立ち寄るスポットであった。

当方一人なら、小さなスーツケース一つで十分なのだが、マカオ到着以来リンちゃんが何やらかんやらとお土産を恐ろしいペースで買い込み、「大き目のスーツケースがもう一ついるんよ!」と言い出したので、まずは見学開始。

この南光百貨店の1階では、結構いろんなスーツケースが手頃な値段で売られていることは以前から知っていた。

真剣に中を開けて、あれこれ物色するリンちゃん。

「XXX? XXXXXX! XXX??」早口の北京語で値段交渉開始。

店員が何やら負けじと言い返す。

結局、定価1,800$ → 1,200$とバーゲン価格になっていた、サムソナイトが製造にタッチしているとの表示のある、米国製の無名メーカー品に決定。

この大型スーツケースに、早速ここで買い込んだ、美味しいのか、不味いのか、当方には得体の知れないローカルな食料品多数と、中国語の大衆向け雑誌数冊を詰め込むリンちゃん。

食事はどこにしようか迷ったが、歩くのも面倒なので 「上海灘」に決定し入る。
昨日の「ロブション」とは比べようが無いが、それなりに美味しい。
二人でしめて300$をパタカで支払い店を出る。

お目当ての買い物(スーツケースそのもの+食料品+雑誌)を終え、意気揚々と遊歩道を闊歩するリンちゃん。

恐らくこの時の彼女の脳内には、当方が5万$のノンネゴチップを一回転させ、それを平均7勝5敗で終え、キャッシュチップ7万$弱とコンプを獲得した際と同程度のエンドルフィンが放出されていたのでは? と推測する。

一旦部屋に戻り、グランドリスボアに“出勤”し、ブラックジャックに精を出すも、行ってこいのプラマイゼロで、爪楊枝だけが一杯貯まり、リンちゃん
の小遣い稼ぎに終わる。

3時にグランドリスボア上階のカフェで待つこと5分、H君登場。
相変わらずのイケメン振りだ。

適当にサンドウィッチ(ポーカープレイヤーの食事と言えば、やはりこれ)や飲み物を頼み、互いの近況を話し合う。

「マカオでは、最近トーナメントが無くなったようだけど、リングの調子は?」

「そうですねぇ、ベネティアンでは時々“フィッシュ(=カモ)”がいてくれるので美味しい思いもしますが、ウィーンはレベルが高いのでキツいですね……」

「そうか、すると主戦場はベネティアン?」

「いいえ、やっぱり腕を磨きたいので、キツいですけど敢えてウィーンで打つようにしています」

素晴らしい! 
これこそが天外魔境であるこのマカオの地で、冥府魔道を歩むことを選んだ賭博戦士の有るべき姿だ!(コピー編集)

互いの健闘を祈りながら分かれる。

空中廊下を渡り、リスボアの皇牌天下(エリートルーム)へ。

今回のマカオ遠征での観光の目玉である、マカオコンシェルジェさん一押しのエンタメ・パッケージ(ジャスト1万円で、CODでのダンシング・ウォーター+3Dのミニシアター+150$の御食事券+ベネティアンでのアイス・ワールド+ゴンドラ体験)を満喫する為、大阪のポーカー仲間2人と一緒に4人でリスボア前からエリートルームが手配したクルマに乗り込み、まずはCODに向かう。

専用シアターの入り口で、本日の午後8時よりの“The House of Dancing Water/水舞間”の席を確保する。

次に少し時間的に厳しいとは思ったが、午後7時開始の3Dミニシアター、“龍騰”の予約をし、徒歩でベネティアンへ。

『いつもながら、バカでかい箱だ。さてと、さっさと“氷世界”とやらを見て、ゴンドラに乗ってCODに戻るとするか……』

しかし、当方の思惑とは裏腹に、「アナタ! このホテルはどこもピカピーカね! 写真撮ろう!」とリンちゃんにせがまれ、中々目的地に進めない。

やっとのことで、展覧会場に特設された“氷世界(アイス・ワールド)”に入る。

中は零下8℃の極寒の世界。
様々な氷の展示の中を駆け足で回る。

続いて、今まで何度も傍を通ったが、一度も乗ったことのなかった、ベネティアン内部を流れる人工の川に浮かぶ、オール本場イタリア製の材料で製作されたというゴンドラに乗って、短い川下りのひと時(貢多拉船体験之旅)を楽しむ。

リンちゃんも、若いポーカープレイヤーの二人も、携帯で写真を撮り楽しそう。

その間、一行のガイドである当方は頭の中でスケジュール調整……

『駄目だ。今が18:50分。このゴンドラの旅が終了後、駆け足でCODに戻ったとしても、19時の“龍騰”には間に合わない……。 まぁ良い、所詮これは50ドルの前座のイベントに過ぎない。メインは20時からの“水舞間”だ。晩飯も食べないといけないし、ここは“龍騰”をキャンセルし、COD内のハードロック・カフェでメシでも食べてから、20時からに備えるとするか?』

皆に提案すると、一同納得する。
楽しいゴンドラの旅は終了。
CODに戻り、2階のハードロック・カフェに入る。

各自、メニューを見ながら好きなものを(英語で)オーダーする中、リンちゃんが中国語で注文すると、フィリピン人ぽいウェイトレスから英語でのオーダーを要求される。

「ここは中国よ! どうして中国語が通じない? あの馬鹿ウェイトレス!」
と憤慨するリンちゃん。

それを宥める内に、料理が運ばれてくる。
この店は外観と雰囲気が売り物の為、料理そのものには期待していなかったのだが、適当に頼んだタイ風焼きソバは非常に美味であったので、やや得した気分となった。

19時45分、あと15分で開演だ。
ウェイトレスを呼び、チェックを告げる。
4人分で850$、100$の御食事券6枚で少し足が出た。

前の二人が、初級中国語講座? として、「謝謝(シェーシェ)、老板(ラオパン)」の使い方について話しているのを耳にし、

「それでは君たちに正しい、“謝謝、老板(ありがとうございます、社長さん)”の使い方を教えてあげよう……、ここの食事代だが、御食事券6枚で少し足が出た。さて、どうしたものかな……」

二人とも大阪人らしく、すぐに当方の意図を察し、大きな声で「謝謝、老板!」

当方が残りを支払い、“The House of Dancing Water/水舞間” の入り口へと向かう。

フランコ・ドラゴーヌ氏の演出による、20億円の巨費を投じて制作されたという、技術とアイデアの粋が集められた巨大水槽(プール)を擁する専用劇場は素晴らしかった。

ショーの内容はドラゴーヌ氏が中国文化にインスパイアされたという、「時空を超えたラブストーリー」がテーマであったが、言葉は不要であった。

但し、連日の徹夜勝負で睡眠不足のギャンブラー達が、数時間歩き回った直後に、アメリカン・スタイルのレストランでボリューム満点の食事を取り、適度にアルコールも飲んだ後に、薄暗くなった会場で座っていると、当然のこととして“睡魔”が襲ってきた。

「アナタ! ナニ寝てる? 折角のショーなのに見ないでどうする? アレ、他の二人も寝てる、おかしいじゃないか? 起きろ!」

睡魔もリンちゃんには勝てない。
一同起こされる。

いよいよ“真夏の夜の夢”の始まりだ。

『これが、City of Dreams で観る、A Midsummer Night's Dream と言う訳だ。 ふーむ、中々どうして、おっ! こんな高さから! あれ? 水槽の水はどうなったんだ? ???』 驚異の世界についつい引き込まれる。

ショーの細かい内容についてはここでは敢えて伏せるが、マカオに行ったなら、多忙なカジノの合間を縫ってでも、一度は観るべきとだけ言っておこう。

さて、魅惑的な一夜のショーは終了した。

若者二人と別れ、リンちゃんと二人、COD内のカジノを彷徨う。

「アナタ! ワタシが勝てる台を選んであげるからね!」とリンちゃん。

「それは頼もしいな、で、どれが“勝てる台”なのかな?」

「それは簡単よ。アナタはバンカーにしか賭けないのでしょ? だからバンカー/プレイヤーそれぞれの勝った数を見て、バンカーの方が少し多いの台を選ぶのが大事のことよ」

「そうか! そんな簡単なことだったとは……、それじゃここでどうだい? バンカーの10勝7敗、良い感じだろう?」

「駄目よアナタ! ここは最低が3千$じゃないか? とんでもない! 最低が千$で良い感じの台を“こっちあっち”歩いて探すのよ!」

『それを言うなら“あっちこっち”だろう……』と思いながら、一緒にCODの内部をぐるぐると歩き回る。

ようやく、ミニマムが千$で、バンカーの15勝10敗という、双方のお眼鏡に適う台を発見、席に着く。

しかし、当方らが席に着いてからはプレイヤーがやや優勢で、徐々にチップを削られる。

マイナス8千$となった時、リンちゃんが「アナタ! 1万$負けたら家(リスボアホテルのことか?)に帰るからね……」と言い残し、トイレの為席を立つ。

2千$をバンカーに張るがあっさり負ける。

『どうする? ここで止めるか? ええい、張るなら今だ!』

バンカーに5千$ベットする。

プレイヤーは7。

バンカーも7。

『何とか踏み止まった。次は1万だ!』

プレイヤーはいきなりナチュラル8!

しかし、バンカーも4ピン2枚の強力な組み合わせから、9が2枚のナチュラル8……

『うーん、強いのか弱いのか……、けど、負けなかったのだから、ここは強いと考えることにしよう。そろそろリンちゃんがトイレから戻ってくる。よし、ここは勝負!』

今回のマカオ遠征最大ベットの2万$をバンカーに張る。

さっきからずっとプレイヤーに張っている大陸系のおっさんも、当方の倍賭けに刺激されたのか、ベットを5千$→1万$にアップする。

『よーし、やっぱりそれ位は賭けてくれないと面白くない。ようやくバカラらしくなってきた。さぁ、勝負だ!』

おっさんが気合を入れて絞るも、すぐにカードを放り出す。

2枚とも絵札だった。

少し気が楽になり、リンちゃんによる時間的制約もあるので高速で絞るが6+4=0のバカラで絵にならない。

おっさんが3枚目を絞る。

微妙な表情を浮かべながら、カードをディーラーに返す。

5だった。

『とにかく足が欲しい! 足、足、足!』

足は有った。

『3ピンが最高! 3ピン、3ピン!』

City of Dreamsでの“A Midsummer Night's Dream”は終わらない。
欲しかった3ピンだ!

思わずカードを放り投げた。

『やったぞ! これで一気にプラス1万$だ!』

けれども、何故かディーラーは1万$しかくれない。

思わず抗議しようとするが、そこでハッと気付く。

『しまった、ここは恐怖の“バンカーシックス”の卓だった。気を緩めるのが早かったか……』

自分が放り投げたカードが6であることを再確認して配当を受け取る。

兎に角、原点には戻った。
ここでリンちゃん、カムバック。

「どうなった?」
「あぁ、何とかチャラに戻ったよ……」
「そう、それはよーかたねぇ。じゃ、家に帰ろう」

2千$ずつ、地道に4連勝したことにして、爪楊枝4本分の80$を渡し席を立つ。

こうして、CODでの“真夏の夜の夢”はその幕を閉じた。


■ 8月19日(日)

いよいよ、実質的には最終日だ。

ここまでは、僅かながらグランドリスボアでのブラックジャックの勝ち分(1万$)だけがプラス。
(バカラはチャラ。 それにリンちゃんが溜め込んだ“ご祝儀”が加わる)

何とかこれをキープしたいと思いつつ、リンちゃんのリクエストで“観光”に出かける。

行く先はマカオの名所の一つ、マカオ半島南西部のペンニャの丘の上にある“西望洋聖堂(ペンニャ教会)”だ。

皇牌天下(エリートルーム)にクルマを出して貰い、暑い中丘の上で記念写真撮影中にマカオ人の新郎新婦が前を通る。

昔、香港駐在中に、駐在員仲間がスチュワーデス(死語)と結婚した際に、ここで式を挙げたことを思い出す。
所要時間、占めて約30分、これにてマカオ観光は全て終了。
(結局、世界遺産のセナド広場は横をタクシーで通っただけだった)

グランドリスボアで、最後の勝負が始まる。

まずはブラックジャックから。

しかし、調子が出ない。

張りが小さいのが幸いし、大怪我はしないのだが、ズルズルとバイインした1万$が溶けて無くなる。

「アナタ、今日は“ブーラク・ジャク”は駄目よ。もう終了」と席を立つ。

移動するのが面倒になり、その周辺のバカラ卓に座るも、展開は同じ。

こちらも同じくズルズルと飲み込まれ、マイナス1万$で席を立とうとしたのだが、ちょうどその時、リンちゃんがトイレに行ったので、“夢よもう一度”と5千$を張るも、あっけなくプレイヤーのナチュラル9で即死。

遂にトータルがマイナス領域に突入してしまった。

リンちゃんが戻ってきたので、爪楊枝5本分を百$と交換する。
(このテーブルでは5勝12敗と散々であった)

お腹が減ったので、グランドリスボア内のビュッフェに行く。

品数は多いのだが、大陸からの団体客が多く、雰囲気は今一つ。

取り敢えず、空きっ腹を満たすことは出来たので、例によって例のごとく、“最終日のゲームプラン”を練り直す。

『ブラックジャックは現状チャラ。但し運気は下降気味。ふーむ、今回はここまでだな。ポーカーはリンちゃんが横に座っての観戦が出来ないと文句を言うのでパス。となると、選択肢はバカラのみだ。最低でも現状のマイナス分:1万5千$を挽回し、手持ちの香港$を端数分を含め約7万$に戻し、エリートルームに“人質”となっている福沢諭吉73枚を解放しなくてはならない。最終決戦の場は、リスボアの皇牌天下(エリートルーム)であることは決まり。但し、それにはまだ少し早いか……』

と、この時、目の前のリンちゃんが口を開く。

「アナタ~、何か疲れて眠たくなってしまった。どこかで休憩しよ?」

そう言われると、当方もいささか疲れていることに気が付く。

「よし、分かった。またマッサージの店に行って、少し休憩だ」

グランドリスボア前からタクシーに乗り込み、金龍酒店前の國際中心地下にある「足康樂」に向かう。

今回は奮発して、足裏+背中のロングコースを頼む。

リフレッシュ完了!

回力娯楽場近くにある、タイの黄金象の頭に触れ、“ゴールド・パワー”を指先に注入する。

『手持ちの5万5千香港ドルを明日の朝までに7万香港ドルに戻す。 ただそれだけのことだ。 幸いここまで無傷の予備兵力がある。日本円(帯封の1万円の新札100枚)とクレジットカードでそれぞれ約10万ドルは動員可能だ。この状況を野球に例えれば、2対3と1点負けているが、現在8回裏の攻撃中、1アウト満塁の場面でバッターボックスに入った3番バッターみたいなものだ。綺麗なタイムリーヒットでなくても、四球でも外野フライでもOK。もし三振しても、まだ後ろには4番バッターが控えており、それが駄目でも9回裏の攻撃もある。もっと厳しい場面でも、今まで何度も乗り越えてきた。 無問題、何も考えず、手もとに来たタマを力一杯振るだけだ!』

澳門の誇る裏の世界遺産である、古色蒼然とした回力娯楽場に突入。

2千$は多すぎる! というリンちゃんのチェックに従い、1,600$~1,900$という、当方にとっては小額のベットを全てバンカーに張り、ローカルのプレイヤーを相手に思うがままに絞り、8勝5敗という美しい“黄金比”で、ジャスト5千$の勝利!

リンちゃんも短い時間で、ナチュラル2回を含めて10×20$=2000$をゲットして満足そう。

『今度来る時まで、何とか営業を続けていて欲しいものだ……』

そう思いながら、回力娯楽場を後にし、最終決戦の場である、リスボアの皇牌天下(エリートルーム)へ向かう。


■ 8月20日(月)

午前2時、エリートルームでは、既に戦いを終了したリゾカジ・メンバーの皆さんが、カジノ談義に花を咲かせていた。

「いやぁ、最初はどうなることかと思ったけど、二束近いマイナスから何とか挽回しプラスに成りました!」

「僕も今回は“勝ち逃げ”で、また来月はシンガポールです♪」

景気の良い話を聞かせて貰いながら、頭の中でファイナルの“ゲームプラン”を練る。

『どうせバカラをプレイするなら、ノンネゴを回して1%貰うとするか? 1万を2万に……無理だ、2万を3万に……これも難しい、3万を4万に……これなら何とか成りそうだ。それ以上はリンちゃんが許してくれなさそうだしなぁ……』

スタッフを呼び、中国銀行発券の千ドル札30枚を渡す。

いよいよ最後の戦いだ。

当方とリンちゃんの横に、大陸系の中国人が、5万$のビスケット数枚と共に座る。

プレイヤーが好きなのか、ほぼ毎回プレイヤーに1万~2万$をベットする。

一番好きな状況だ。

当然こちらはバンカーにその2割程度をベットする。

プレイヤーの7を、2回連続捲くって勝つ。
何やら唸り声をあげながら、大陸系の中国人がリンちゃんに話し掛ける。

以下、当方の拙いヒアリングの報告。

「お姐ちゃんは中国人だろ? どこの出身だ?」

「ワタシは湖南省よ」

「そうかい! ワシは湖北省だ。お隣さんという訳かい。 成る程……」

ここでおっさんがプレイヤーへの張りを千$数枚に落としたので、新しい爪楊枝を加えながらルックを決め込む。

プレイヤーがナチュラルで勝利。

おっさんは複雑な表情を浮かべる。

「ところで、姐ちゃんの連れの “日本鬼子(リーペンクイツ=日本人の鬼野郎)”だが、本当に“利害(リーハイ=強い)”なぁ……、おかげでこっちは10万$負けちまったよ」

そんな会話を横で耳にしながら、トイレに立つ。

戻ってくると、おっさんがいない。

リンちゃん曰く、「アナタ! あの人、アナタが席を立つといっぺんに5万$賭けて、3連敗して、ぼやきながらどっかいっちゃったよぅ……」

おっさんの思考パターンを想像する。

『さっきからワシが勝てないのは、あの“日本鬼子”のせいじゃ。そうに違いない。おや、その“日本鬼子”が席を外した。今が好機だ! この“鬼の居ぬ間に”ディーラーと差しの勝負で、一気に挽回だ! おや?・・・・・・、こんな馬鹿な!』

おっさんが消えてから急に勝率は落ち、勝ち分が減りだす。

リンちゃんの爪楊枝だけが徐々に増える。

こうした中、隣の卓から、山のようにビスケット(高額チップ)を持った、リンちゃん曰く不動産関係で一山当てたらしい、全身金ピカの成金中国人(夫婦?)が乱入してくる。

いきなり40代の成金旦那が、奥さん? の静止を振り切り、プレイヤーに5万$を張る。

様子見でバンカーに2千$を張る。

プレイヤーのナチュラル8を、高速絞りのナチュラル9で破る。

激怒する奥さん!

それを宥めながら、続いてバンカーに10万$を成金旦那が張るのを見て、天邪鬼の心がむくむくと湧き上がり、プレイヤーに2千$を張る。

それを見た成金旦那が、当方の“絞り”を封印する為、敢えてプレイヤーにも5千$を張り、ディーラーに対しプレイヤーカードのオープンを要求する。

することが無くなったので、展開を見守る。
これは、プレイヤーの絵札2枚に対し、バンカーのナチュラル8であっさりバンカーの勝ち。

但し、成金旦那は、先ほどの負けで5万$、今回バンカーのコミッションで5千$、プレイヤーへのベットで5千$失ったので、差し引き4万$の勝利に留まる。

何やら、夫婦間での激しい言葉のやり取りの結果、その4万$は奥さん? のバッグの中に消え、成金夫婦はどこかへ消える。

「アナタ、見てみぃ! あの奥さんはたった2回の勝負で4万$貰ったよぅ! ワタシは爪楊枝2本分でたったの40$だけ……、この差はなんなん!」とご不満のリンちゃん。

「リンちゃん、僕は常に周囲の他のプレイヤーを観察しているのだけれど、あの成金旦那はついさっきまでは百万$以上持っていた筈だよ、それが、さっきこの卓に移動してきた時は僅か30万$弱に減っていたという訳だ。夫婦のお金ということは、結局のところお財布は一つだろ? だったら旦那さんのお金が70万$も減った直後に、仮に自分のお金が4万$増えたとして、それは果たして喜ぶべき状況と居えるのだろうか?」

「良く分からないけど、ワタシもヨンマンドル欲しい……」とぼやくリンちゃん。

勝ったり負けたりが続く。

手元のキャッシュチップは3万6千$、千$のノンネゴチップが残り5枚となる。

これでラストと思い、本日MAXの4枚ベットするが、ハウス・プレイヤーのナチュラル9にあっけなく負ける。

『まずい、ノンネゴチップの残りが1枚になってしまった。どうする? 追加でローリングするか、それともキャッシュチップで勝負するか? しかしどちらもリンちゃんのガードが堅そうだ……』

「アナタ、これは遣ったらダメだかんね!」

ようやく、ノンネゴチップのローリングの仕組みを理解し、キャッシュチップを両手で“蓋”をするリンちゃん。

兎に角、残った僅か1枚のノンネゴチップをバンカーに張る。

勝つ。

また勝つ。

またまた勝つ。

「これでええんよ♪ これで♪」と喜ぶリンちゃん。

奥の高額レートの卓で少しは挽回したのか、気分良さ気に戻ってきた、リンちゃんの故郷のお隣さんが当方の後ろに立ち、小さな声で「利害(リーハイ)、利害(リーハイ)……」と呟く。

これで最後と思いながら、ここまで単騎でハウス相手に孤軍奮闘してきた愛しいノンネゴチップをバンカーにベットする。

ハウス・プレイヤーは6。

こちらは絵札とダイヤの3ピン。

2年前の夏、南オーストラリアのウーメラ砂漠上空で、月以外の天体の固体表面に着陸しての“サンプルリターン”という往復60億kmに及ぶミッションを終え、満身創痍のまま、まさに燃え尽きようとする小惑星探査機“はやぶさ”のように、ラスト1枚となったちっぽけな千$のビスケットは、最後の煌きを放った。

美しいダイヤの7。
チャーシューで、“ミッション・コンプリート”

貯まった千$チップ10枚を4枚目の1万$チップと交換する。

お約束で次もバンカーにベットするも、プレイヤー4:バンカー3から4ピンで終了。

“はやぶさ”は燃え尽きた。

ここまで! と席を立つ。

食事席に座り、スタッフを呼び、“人質”となっていた日本円73万円を解放する。

その際、隣に座っている人相の良くない大陸系中国人を指差し、「アナタ! あの男の人を見てみぃ! 煙草と爪楊枝を一緒に咥えている? 昔の香港映画に出て来る“黒道(=やくざ)”みたい!」とリンちゃん。

「そうだな、でも、もう少し小さな声で話すように……」と注意する。


『結局、ブラックジャック/バカラともにチャラで終わったか……』

そう思いながら、何気なくリンちゃんに、爪楊枝の祝儀が幾ら貯まったか訊ねる。

「そうねぇ、アナタ。香港のお金は良く分からないよ。イロイロ買い物もしたしぃ……、とにかく、残りはこれだけよ」

リンちゃんのシャネルのバッグから、裸で出てきた香港ドルを数える。
全て当方からのご祝儀だ。
1万ドル以上有る。
頭がクラクラしてきた。

『最初はゼロだったリンちゃんの手持ちの香港ドルが、服・アクセサリー・お土産、またそれらを入れる新しいスーツケースを買って、更にキャッシュが1万ドル以上残ったという訳か……、正に“塵も積もれば”何とやらだ。昔の中国の諺に「苛政は虎よりも猛し」というのが有ったが、獰猛な虎(=カジノ)を相手に闘うだけでも大変なのに、それに勝つ度に、苛政による取り決め(=リンちゃんへのご祝儀)を支払うという二重の搾取を受けたのでは勝てる筈がない! まぁ良い。今回は負けなかった。それで良しとしよう……』

部屋に戻る。

まさかと思ったが、新しい特大スーツケースにせっせと缶コーラや缶ジュース、それにスリッパを詰め込むリンちゃん。
(このスリッパは現在我が家で活躍中。お陰様で家が“葡京酒店”と成ってしまった……)

窓の外には金色に輝きながら聳え立つグランドリスボアホテルが見える。

もう夜が明けた。

澳門での“真夏の夜の夢”は終わった。

「アナタ! 澳門はとーても面白かったわね♪ 次はいつ行く?」

目の前には、朝日を全身に浴びながら、この地に降臨した元レースクィーンである“澳門女王”が微笑みを浮かべていた。

                                        (完)



*このレポートはリゾカジ.SNSの日記を転載したものです。



このReportへのコメント(全 2件)

2012/10/05(Fri) 18:54

なおさん

マカオの帝王 様


とても楽しく拝見させていただきました。

最終的に、カジノ&リンちゃんVSマカオの帝王様

のような最後の締めくくり素敵でした。


またレポートお願いしますね。感謝。


PS:お友達のH様のポーカーを見てみたい気がします。


2012/10/08(Mon) 23:17

マカオの帝王

なおさん こんばんは!

H君のポーカーは“熱い”です。

いつだったか当方がフルハウスで、絶対勝ったと思いオールインするとコールされ、ワンアウツを引かれてストレートフラッシュを作られ、負けたことが有ります。

ただナイスガイなので、陰ながら応援しています。


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