ラスト・クリスマス(1996)後編
20万8千$をバンカーにベットする。
卓上がバンカーで埋め尽くされる。
“ゴリラーマン”がテーブルのリミットである50万$に収まっているかチェックするが、当方以外に大口はいない為、取りあえずクリア。
ノーモアベットの鐘が鳴った。
『遂に賽は投げられた。これでルビコン川を渡った訳だ。もう後には引けない。マカオでバカラを始めてから、これまでの最高ベット額は15万$(結果は引き分けで、次回は日和って5万$に下げたらナチュラル9で勝利し撤収)だったが、それを上回ることになる。それはそうとして……、さっきから顔面蒼白で10万$の板を4枚抱えて、じっと成り行きを見計らっている老板(ラオパン、年配の男性全般を指す)だが、何やら“訳アリ”のご様子だ……、恐らく階上のVIPルームで散々痛めつけられたんだろうな……、クリスマスだというのに、尤も、この勝負に負ければ自分もあの老板のお仲間入りだ。いざ!』
今回もプレイヤーは誰もいない。
運命のカードが配られる。
“ゴリラーマン”にプレイヤー側のカードを2枚ともオープンするよう促す。
無表情でサクッと捲り、顔を出したのは、絵札+8=ナチュラル8!
卓上に悲鳴が上がる。
『ガオチョー!(何てこった!)と煩い奴らだ。まだ終わりじゃない。取り敢えず足!』
最初に配られたカードの“足”を確認する。
足は有った!
横にする。
リョンピン(4か5)かセイピン(9か10)が良かったのだが、残念ながらサンピン(6,7,8)であった。
『まぁ良い(余り良くないが……)これで2枚目が絵札なら勝ち無しで良くて引き分け。足有りなら、同じく勝ち無しでほぼ負け確定だ……、望ましいのは“モウピン(1,2,3)”だ! Aなら最高! 2でも良いが3だと苦しい。足も枠も不要! 何も見えるな!』
願いが天に届いたのか、厳つい顔のサンタクロース(=“ゴリラーマン”)からのクリスマス・プレゼントとして“モウピン(1,2,3)”降臨!
但し、Aではなく、又もや、“ガッタウ(2か3)”であった。
ジャクソンとこの卓のここまでの戦友である“三婆”に向かい、「サンピン、ガッタウ(6か7か8、と2か3の組み合わせ)」と告げる。
四分六だけどまだ勝ち目は有る! とのメッセージを受け取ったギャラリー達が再び活気づく。
現時点での確率は;
9点で勝ち・・・・・(6+3、又は7+2の場合):33%
8点で引き分け・・・(6+2の場合):17%
0点で負け・・・・・(7+3、又は8+2の場合):33%
1点で負け・・・・・(8+3の場合):17%
さっきよりは苦しいが、ギリギリ戦える。
絞りに入る際、又も手が止まる。
『待て! この1枚目のサンピンが8なら、2枚目に関係なく負けが確定してしまう……、それは面白くない。よく見ればさっきと同じで、目の前にカードが2枚、腕も2本。良し、さっきと同じ伝家の宝刀、“二刀流”アゲインだ!』
ポケットから、イザという時の為に用意した日本製の爪楊枝を2本取り出し、同時に口に咥える。
さっきと同じく、両手の親指と人差し指で、カードの端を隠しながら、ジリジリと斜め上に絞り上げる。
ここを先途と、ジャクソンが、「チョイヤー!(点よ、飛んでいけ!)」と叫ぶ。
卓は「チョイヤー、チョイヤー!」の大歓声で埋め尽くされる。
その最中、最初の試練が訪れる。
左手で絞り上げる3ピンの中央に点が見えた。(見えてしまった……)
これで7か8が確定である。
現時点での確率は;
9点で勝ち・・・・・(7+2の場合):25%
8点で引き分け・・・0%
0点で負け・・・・・(7+3、又は8+2の場合):50%
1点で負け・・・・・(8+3の場合):25%
『かなり苦しくなった……、もう引き分けの目も無くなった。けど、右手の真ん中の点と、左手の中央下の点を共に飛ばせば、まだ望みは有る! まずはこの邪悪なリスボアの主、スタンレー・ホーに一矢報いる為、“悪魔の右手”の出番だ!』
歯を食いしばり過ぎた為、爪楊枝が1本折れる。
右手のガッタウ(2か3)は“2”だった。
カードを卓上に叩き付ける!
それを確認し、卓上が沸騰する!
『さぁ! これで後はここまで、このカジノで傷ついた全ての者達に癒やしを与える“神の左手”の出番だ! “ゴリラーマン” 信じて良いんだな!?』
今まで何度も窮地を救ってくれた“ゴリラーマン”を見上げると、彼はその瞼を伏せ、静かに頷いた。
脳内に去年の日本のドラマの主題歌、FIELD OF VIEW の “君がいたから”が流れる。
……何度もくじけそうになって、ここまで来たんだ……振り向けば、いつも君がいたから……何が正しい、何が間違っているのかなんて……失うものは何ひとつない……OHこの世界に“絞り”続けるしかないのか……
指先に限界まで力を込める。
点はマゼラン星雲の彼方まで飛んでいった!
頭の中が真っ白になる。
“神の左手”で♠7を “ゴリラーマン” に渡す。
……今ぼくらの心はひとつになる……
脳内にFIELD OF VIEW の歌が流れ続ける。
「パーシューガウ!(8対9の勝利だ!)、サイレイ!(凄い!)ヤップン・ドウサン(日本人の賭の神様だ!)」
卓上の歓声は最高潮となる!
“ゴリラーマン”が配当として、405,600$をつける際、一瞬手が止まったが、今回は5千$を千$5枚に両替せず、そのまま5千$チップ1枚でこちらに手渡した。
『ほら、心配いらなかっただろ? これでそっちもトータルで浮いた訳だ。今回のお代としては最低5千$! もしここでケチると、次はどうなっても知らないよ?』
無言の会話の末、40万$ジャストを受け取り、端数分全て(5,600$)をチップとして献上する。
罫線は後1回バンカーの勝利を示している為、“三婆”及び風見鶏達は次もバンカーに、総額約10万$をベットする。
当然、皆さんの期待は当方に集まるが、当方にはもうビッグベットを続ける体力も気力も(おまけに爪楊枝も)残ってはいなかった。
するとそこに突然、後ろで始終成り行きを注視していた老板が、手元の40万$を立ち張りでそっとバンカーに置いた!
それを見て、老人に猛烈な抗議をするジャクソン。
それに対し、何やら広東語で懸命に説明する老人。
“三婆”も会話に加わり、喧々囂々となる。
状況が掴めず、ジャクソンに説明を求める。
「あぁ、この老板は軍資金の10万$を負けた後、そこでストップすれば良かったのに、年内に大事な仕入れ先に払う予定の40万$に手を出し、それも全部すってしまい、破れかぶれになって、カジノの中の知り合いの金貸しに限度額一杯の40万$を借り、オールイン! することにしたものの、何処で勝負するかを決めかねて場内を彷徨っていたところ、この卓でのユーのゴッドハンドを目にして決心したそうだよ……」
「そうか……、ならその“老板”に次回の勝負をお譲りしても、こっちは構わないけれど……」
「ノー! この罫線を見てよ! 後1目、バンカーが勝つのは確実だよ! ユーの大好きなバンカーだよ? この卓の皆もユーが絞るのを望んでいるんだよ? それをここで投げ出すだなんて、そんなことは駄目だよ!」
ジャクソンの言うことも分からなくは無かったが、如何せん、さっきの勝負に“全集中”した結果、もう半ば抜け殻状態になっており、ここからもう一度ビッグベットをするのは不可能であった。
「それなら、5から10万$だけバンカーにベットするから、老板は勝手に40万$張れば良いのでは……」
「ノー! この卓のMAXは50万$だよ! プレイヤーが誰もいないから、バンカー側のベットの総額が50万$になったら、そこまでさ。その場合、座っている人が優先だから、ユーが10万$ベットしたら、老板は30万$までしか賭けられない訳だよ。けど、この罫線じゃ、次の次はどっちが勝つか分からないし、老板はあくまで一発勝負を望んでいるそうだ……」
卓上のギャラリーたちから、
「引っ込め老板! この日本人にこのまま続けさせろ! そんなに張りたいなら、大人しく差額だけ張れば良いではないか?」(以上、推測)
との声がわき起こる。
すると老板が突然、左手のロレックスの時計を外し、当方に差し出しながら、ジャクソンに何やら話しかけた。
「あぁ、通訳するよ。この老板は、次回の勝負の権利を自分に譲ってくれたら、勝っても負けてもこの時計をユーにプレゼントするそうだ。見たところ少々古いが、モノは良い。“押(質屋)”に持って行けば、2~3万$にはなるだろう。けど、普通にバンカーにベットするだけで、その何倍も勝てるんだよ? そのチャンスを見す見すこの老板にくれてやることは無いよ!」
「そうだ! そうだ!」と周囲からの声が聞こえてくる。
目の前の悲壮な“老板”を改めてじっくりと見る。
年の頃は60前後、ちょうど日本にいる自分の父親と同年代だ。これまでは何とかギャンブル(バカラ)と一線を越えずに付き合ってきたのだろうが、何故かこのクリスマスの日にその一線を超えてしまった訳だ。もしまだ自分に欲望が残っていたら、「オッサン、引っ込んでな!」と告げて好きなだけバンカーに張ったことだろう。けど、今はそのエナジーはもう残っていなかった。
確認の為、“ゴリラーマン”を見る。
すると、“ゴリラーマン”は首を振った!
それで答えは決まった。
「ジャクソン、良く考えてみろ! 僕の今回の遠征での勝ち分は、今勝った20万$が全てだ。もしこの次、20万~40万$を賭けたとして、運良く勝てば良いがもし負けたら君へのチップはゼロだ。それで君は良いのか? それよりここで手仕舞いにして、自分の取り分を確定させた方が良いのじゃないか? キャッシュだと、そうだなぁ、1~2万$だろうが、幸いこの老板がその倍はするというロレックスを譲ってくれると言っているんだろ? だったらそれを有り難く受け取って、この老板に一発逆転・起死回生のチャンスを与えてやってはどうだろう? 今夜はクリスマス・イブだ。いつもは意地悪な神様も、もう一つ位は奇跡をくれるかも知れない。今の説明を卓上の皆さんにしてくれ。そして、僕はそのロレックスの時計を君への今回のチップにする。すぐに“押”に持って行ったとしても、その方がキャッシュより取り分は多くなるぞ。それに地元の君なら、高く引き取ってくれる店も知っているだろう」
ジャクソンが固まる。
(以下、推測)
『成る程、確かに次の勝負、バンカーが勝つ保証は何も無い。ここまで太らしたのに、報酬がゼロでは骨折り損の草臥れ儲けだ……、それよりも目の前のロレックスだ。これが有れば、自分で思いのままに勝負出来る。それにもう、この日本人からは勝負の“熱気”が感じられない。何やら今夜は香港で“約束”が有るそうだし、ここは一つ、ここいらで手を打つとするか?』
ジャクソンが広東語で卓上の皆さんに説明する。
渋々皆さん、ご納得。
老板にとり、折角の、一世一代・一生一度の大勝負なのだから、自分で絞って貰う為席を立つ。
(注)尚、その際ジャクソンは老板が負けた場合、「やっぱりロレックスを譲渡するのは止めだ。それを返してくれ!」とか言われかねないと考えたのか、カジノの監視カメラに向かい身振り手振りでゼスチャーを示した後、自分の右手にそのロレックスを早速填めた。
恥ずかしながら本音を言うと、この老板の申し出は当方に取り、渡りに船・願ったり叶ったり、であった。
『ふぅ、助かった。ここで所謂一つの “勝ち逃げ”を決め込んだら、“マカオの帝王”の名に傷がつくところだったが、タイミングよく手負いの“老板”が現れてくれたお陰で “面子”を保ったまま、ロレックスのおまけまで戴いて席を立つことが出来た……』
席を立つ際、“ゴリラーマン”が無言で当方の1万$のチップ40枚を指さし、老板の10万$のビスケット4枚と交換しては? と合図を送る。
それは最も、と頷きながら交換する際、普段は殆ど喋らない“ゴリラーマン”が珍しく小声で「少少和(少しだけ引き分けに張って見ては?)」と耳元で囁いた。
『馬には乗ってみよ、人には添うてみよ、という諺もあったな……、滅多に口を開かない“ゴリラーマン”からの貴重な助言だ。普段は張らないタイだが、試しに手元のキャッシュの一部を張って見るとするか?』
財布から千$札を2枚取り出し、これをタイに張る。
老板が入れ替わり、9番BOXに座る。
バンカー側の絞り手が老板に変わったことで何かを感じたのか、風見鶏の内の一人が席を離れる。
するとそこに、最初プレイヤー側での対戦相手であった“鄧小平”が再び座り、相手が日本人のノッてる若造じゃなく、死にかけの老人ならチャンス! と見たのか、プレイヤーに2万$をベットした。
漸く勝負が再会される。
双方にカードが配られる。
“鄧小平”がカードを捏ねくり回すが、がっかりした様子で「サンピン(6,7,8)、リョンピン(4か5)……」という不毛な組み合わせであることを呟く。
オープンされたのは8+4=2点であった。
それを見て、大きなため息をつく老板。
『折角譲ったんだから、勝ってくれよな』
そう思いつつ勝負の行方を見守る。
「ゴン(絵札)! サンピン(6,7,8)!」と老板が叫ぶ!
サンピンを時間をかけて絞る老板。
しかし、残念ながら真ん中は二つとも抜けてしまい、6止まりとなる。
深くため息をつく老板。
プレイヤーに3枚目が配られる。
絵札かモウピン(1,2,3)ならバンカーの勝利確定だが足があればまったく分からない。
もし足が有った場合は、次のようになる。
4+2=6点・・・△
5+2=7点・・・×
6+2=8点・・・×
7+2=9点・・・×
8+2=0点・・・○
9+2=1点・・・○
10+2=2点・・・○
“鄧小平”が絞りに入る。
「有!(足が有ったぞ!)」と声を上げる!
この瞬間、老板が息を飲み込む音が聞こえた!
『まだ五分五分だ! 大丈夫!』と心の中でエールを送る。
“鄧小平”がカードを横にする。
「リャンピン(4か5)!」との叫び声が上がる。
「XXX!」 老板から悲鳴が上がる!
もう老板に勝利は無く、有るのは引き分けだけであった。
「頂(テンガー!)」と叫ぶ“鄧小平”
何も出来ず、天を仰ぎ、何教かは知らないが、神に祈りを捧げる老板……
老板の神様は恐らくキリスト教だったのだろう。
点は付かず4止まりで2+4=6点の引き分けに終わった。
“ゴリラーマン”からタイの配当として18,000$が付けられるが、通常マカオではディーラーの推薦でタイベットし、それが的中した場合、元玉をチップとして進呈するのが習わしであった。
黙って2千$を進呈する。
又もこの卓上で只一人の勝者となった当方に対し、周囲から畏怖と羨望の眼差しが注がれる。
卓上がざわめく中、仕切り直しとなる。
プレイヤー側の“鄧小平”は、そのままの様子。
風見鶏達は、ベットを引っ込める。
“三婆”は張りを半分に落とす。
肝心のバンカー側の老板だったが、席を立ちながら何やらジャクソンに話を持ちかける。
「あぁ、バンカーに40万$張るのはそのまま、だけど自分では恐ろしくてとてもじゃないけどもうカードを絞れない。そこでお願いとして、ユーに代わりに絞って貰えないだろうか? との提案だ。結果については一切文句を言わないから、どうか引き受けてくれないだろうか?」
とジャクソンが通訳する。
周囲の目が注がれる。
そこまで言われては、“マカオの帝王”としては引き受けざるを得ない。
選手交代、とばかりに席を入れ替わる。
“代絞り”といっても、張らないのも変なのでさっき勝ったばかりの16,000$をバンカーにベットする。(老板の40万$は立ち張り扱いとなる)
それを見て、再び風見鶏達がバンカーにベットする。
“三婆”もベットを増額し、テーブルリミットの50万$となる。
(プレイヤー:2万$、バンカー:52万$)
“三婆”も風見鶏達も当方に遠慮したのか、ベットを15,000$以下に押えたので、自動的に当方がベットオーナーとなる。
再び双方にカードが配られる。
“鄧小平”がカードを絞りに入るが、目に輝きが無い。「ゴン(絵札)、インシィ(A)……」と呟きながら、♠Aと♠Jを場にオープンする。
『純正ブラックジャックか……、“鄧小平”似のオッサンよ。どうやらプレイするゲームを間違えてるようだな……』
この後の予定も有るので、いつもより手早く絞りに入る。
1枚目は絵札。
即捲って“ゴリラーマン”に放り投げる。
2枚目は足有りのセイピン(9か10)
「セイピン」と声を出すと、周囲が活気ずく。
老板の顔が生気を取り戻す。
『さぁ、9ならナチュラルで勝利、10でもやり直し、プレイヤーが1点からなら、何とかなるような気がするが、ここは一気に決めたい!』
カードを横にし、ただ中央を凝視する。
真ん中に、微かな徴が見える。
それが段々と大きくなる。
もう間違い無い。
セイピンは9! ナチュラル9での勝利確定!
真後ろに立ち、運命を自分に託した老板だけに見えるように、絞りたて(搾りたて?)のカードをゆっくりオープンする。
「XXX……」何やら呟きながら、その場に崩れ落ちる老板。
“ゴリラーマン”がバンカーの勝利を告げ、卓上が再び歓喜の渦に包まれる。
その中を、『やっぱり、あの日本人に逆らうのは止めた方が良かったなぁ……』といった感じで、“鄧小平”がすごすごと席を立つ。
“ゴリラーマン”が老板に配当として78万$を渡す。
その中から、躊躇いながら1万$チップを1枚、お礼として“ゴリラーマン”に差し出す老板。
こちらには31,200$の配当だったが、その中から相場として1,200$をチップとして渡す。
商売繁盛のマカオ№1予想屋、“ゴリラーマン”の面目躍如であった。
その最中、当方に向かい、感謝の言葉の限りを尽くす、自分の父親と同世代の老板に対し、何となく情が沸いてきた結果、口と手が自然に動いた。
「ジャクソン、その右手に填めているロレックスの時計だけど、良く見たら小さな傷がいっぱい付いているぞ。“押(質屋)”に持ち込んでも、余り良い値段は付かないかもしれない……、それに本当に欲しいのはこっちだろ?」
そう言って1万$チップ2枚を目の前でユラユラさせる。
「その時計は、その傷の一つ一つに、この老板の今までの人生が刻み込まれている訳だ。それに今の勝負に勝ったからといっても、最初の元金(10万$)、今のバンカーのコミッション(2万$)、ディーラーへのチップ(1万$)、金貸しへの利息(?万$)、等を考えると痛い負けには違いない。その上、長年愛用した時計まで手放したとあっては、後できっと後悔することだろう。だからそのロレックスは老板に戻してやれ。その埋め合わせはキャッシュでするから、……日本には、“情けは人の為ならず” という諺がある。これを中国語に訳すと、うーん、難しいなぁ……」
そう思いながら、卓上にあった罫線の記録紙に4字熟語で、・因果応報、・善因善果、と書き記す。
どうやら意味は通じた様子。
時計を外しながら、「あれ? 僕へのチップは3枚なのでは?」と呟くジャクソンに対し、
「欲をかくのも程ほどにな。こっちも元出(2千$)がかかってるんだ。2枚で十分!」
そうピシャリと撥ね付け、ジャクソンから受け取った時計を老板に戻す。
ジャクソンがことの成り行きを説明する。
“三婆”及び風見鶏達から、口々に感嘆の声が上がる。
白髪交じりの頭を何度も、自分の息子位の歳の当方に向かい下げる老板。
『今回は偶々ハッピーエンドに終わったが、自分もいつかはあの老板のようになるのだろうか? バカラは恐ろしい……、いつかは奈落の底に落ちることになる。』
「あぁ、ユーはこれからどうする? 良かったら飲茶、それともマッサージでも一緒に……」と話しかけるジャクソン。
「残念だけど、今から香港に行き、クリスマス・プレゼントを購入し、夜は大切な人とのディナーがある。今回はここで失礼するよ、また連絡する。今更だけど、メリー・クリスマス&ハッピー・ニュー・イヤー!」
ジャクソンに別れを告げ、タクシーに飛び乗りフェリーターミナルに向かう。
ダフ屋からすぐに乗れるフェリーの1等(豪華席)のチケットを倍額で購入し、パスポートと41万$の入ったダンヒルのポーチをしっかりとロックした上で身体の真ん中(臍の上)に専用腹巻きで固定した途端、睡魔が襲ってきた。
ラスト・クリスマス(1996)完結編へと続く。
初めまして 以前からのファンです。
「左手で絞り上げる3ピンの中央に点が見えた。」時点では
9点で勝ち・・・・・(7+2の場合):1/9
8点で引き分け・・・0%
0点で負け・・・・・(7+3、又は8+2の場合)5/9
1点で負け・・・・・(8+3の場合):1/3
なのでは?
もう一方の点の有無で五分五分に感じてしまう確率の妙だと何かで読んだ記憶があるだけで、
数学に強くないので間違っていたらすみません。
kindleさん、こんばんは。
コメントについてですが、これは “疑似モンティ・ホール問題” とでも呼ぶべき、条件付き確率(所謂ベイズの定理)に属する事案です。※ モンティ・ホール問題については、ググって下さい。
もし、この場合の3ピンの模様が♢であったならば、♢は上下左右対称なので、真ん中上に♢が見えた時点で、8である場合が2通り、7である場合が1通りと成る為、(8が優勢)
7・・・1/3、8・・・2/3 となるので、以下のようになります。
9点で勝ち・・・・・(7+2の場合):1/3×1/2=1/6
8点で引き分け・・・・0%
0点で負け・・・・・(7+3、又は8+2の場合):1/3×1/2+2/3×1/2=3/6
1点で負け・・・・・(8+3の場合):2/3×1/2=2/6 (非常に厳しい)
但し、本編の場合は3ピンの中でも、模様が上下対称でない♠という、別の条件付きである為、
* 参考
---------------
|♠ ♠ |
| ♠ |
| ♠ ♠ |
| ? |
上図のように、3ピンの真ん中上に♠が見えた場合は6である確率はゼロとなると同時に、これが7もしくは8となる確率は、それぞれ1/2ずつとなります。
何故なら、この向きで絞って、真ん中上に “何も見えない場合“=6(100%)であり、6の確率は当然ですが1/3であることから、真ん中上に “何も見えない確率“=1/3となります。
よって、3ピンの真ん中上に♠が見える確率は2/3となり、♢の場合と異なり高くなりますが、7もしくは8が出る確率は共に1/2となる次第です。その結果、この条件下でバンカーが9点で勝利する確率はレポートの通り、1/2×1/2=1/4となります。
最も、こんなことを幾ら計算したところで、バカラの勝率が上がる訳でも何でも無いのですが、絞りの最中にこんなことでも考えていないと、他にすることが無いので、ついやってしまいます。
3ピンは♢がいろんな意味で熱いですね!
マカオの帝王さん リゾカジさん 澳門娯楽場ファンの皆さん 新年快楽
いやぁ〜 帝王さんのレポート何度拝読しても臨場感がリアルに伝わりマカオにいるような気分になります
私もマカオに行きだした頃 大きなお客さんが大勢いて レポート同様一人でテーブルMaxなんて事もちょいちょい見かけ本当に驚きました バンカーコミッションやチップの金額も凄かった 最近ではすっかり見なくなりました
そおいえば ディーラーベットなんていうのもありましたよね...
帝王さんの香港駐在時代はさぞ激しいお客さんが多かったんでしょうね 帝王さんは書籍にもされていますので 諸事情等々あると思いますが これからも澳門娯楽場ファンのためにレポートお願いします 長々すみません
上か下かと言う話ですね。
全部飛ばしたい時はシャンプー 上ありの下消しはウオッシュレットとかわめいてます。
何故か勝負手の時に限ってダイヤのような気が.....
どちらが上か判らんと。
起死回生のエイト、一発即死のエイト ほんとに悪魔のエイトです。
歳を取るにつれ 引きがドンドン弱くなって行きます。
来月でほぼ一年カジノ無縁の日々ですので皆さまも相当ストレス溜まっていると思います。
マカ帝さんも二年以上マカオから離れてられるのでは?
解禁の暁には一気に発散と 毎週飛ばれる方も多かろうと思います。
小生も未だ体力的に何とかなる内に行きたいと切に願ってます。
マカオの帝王さん
ありがとうございました。昔(ダイヤの場合でも)3足で片方の点が見えても7と8は五分五分だと信じておりその勘違いに何かの書物(もしかしてマカオの帝王さんの著書?)で気がついてハッとした次第です。そして今回ダイヤとそれ以外の差に気づきまたハッとした次第です。
今後3足で絞るときに正しくハラハラできそうです。
私のような初心者にも丁寧に解説くださり本当にありがとうございました。
Andyさん、こんばんは!
今はコロナの影響で、客よりディーラーの方が多いと思いますが、1年前まではハイローラーは大勢いたと思います。但し、皆さんは上の階のVIPルームで各種コンプを受けながら、バカラに打ち興じていたものと推測されますので、平場では見かけることが殆ど無かったのでは?
ただ、当方は軍資金の有るときも無いときも、マカオでバカラをする際、その殆どを平場でプレイ
した、“平場大好き人間” ですので、 マカオの最新事情は書けませんが、過去のデータと記憶を頼りに、今までこの掲示板にアップしていなかった、世紀末(1990年~2000年)のマカオのレポートを順次アップしますね!
ひこちゃんさん、こんばんは!
>歳を取るにつれ 引きがドンドン弱くなって行きます。
これには当方も同感です。
確率的にはあり得ないのですが、絵札+4ピンの場合、30代では6割近くは “9”を引けたのに、40代で5割になり、50代では4割ちょいしか、引けなくなった(様な気がします……)
>マカ帝さんも二年以上マカオから離れてられるのでは?
いえいえ、リンちゃんの縛りも有り、何だかんだで、4年以上マカオの地を踏んでいません。
もし、このまま第二の故郷であるマカオを再訪することなく、コロナで散ることにでもなったなら、“世界の中心で愛を叫ぶ” に因み、リンには当方の両手の指先の骨をリスボア前のマカオ湾にまいてくれ! と伝えてあります。
kindleさん、どういたしまして。
例えば3点からどうしても “6” が欲しい場合、♢の3ピンは最初の関門は半々で突破するのですが、最後に“7”になってしまう確率が1/3有る為、最後まで気が抜けない次第です。
これが、他の模様の場合、パチンコの一発告知のようなもので、中央上が最初(で最後)の関門(突破確率1/3)となる訳です。
コロナが収束し、海外渡航が解禁となった暁には、3足で絞るとき、“正しくハラハラ” して下さいね!
マカオの帝王さん、
こんにちは!
しばらくマカオに行けない日が続きますが、カジノなしでもくるくるは平気です!
最近はFXで勝負しているからです!笑
2020年は1,266,930円勝ちました!
夢は億トレ(億の資産を持つトレーダー)ダアッ笑(^O^)/
マカオの帝王さん
相も変わらずスリリングな内容で一気に読んじゃいました。
聞いたわけでもないのに、ジャクソンに聞いたかのような心の内。
心象描写の妙に引き込まれます。
ふと、1996年。鑑みると、私、まだマカオデビューしていません。
内容はもちろんですが、年代の厚さにも感嘆しきりです。
横レスすみません。
くるくるさんにもお会いできておりませんが、
私の友人のサイト 幾好呀嘛 でニアミスしてました。
勝手に親近感マシマシです。笑。
くるくるさん、こんばんは!
この三連休は、緊急事態宣言が大阪でも再度発出されそうなので、ミナミでポーカー三昧でした。
9日(土)夜・・・一つ、10(日)昼の1時から一つ、夜8時から一つ、深夜にもう一つ、11日(月)昼の1時から夜の8時まで一つ、計5つのポーカートーナメントに参加し、全てでファイナルテーブルまで残ったものの、一つだけランナーアップ(2位)でささやかなプライズを獲得しましたが、その他は5位~8位で、前途ある若者に “花” を譲りました。
どうも自分は株式投資やFXは向いてないようで、良く考えるとBJ、バカラ、ポーカーと全て2枚のトランプのカード+追加のカードの組み合わせで、数分以内に勝ったり負けたりするゲームにしか、興味が持てないようです……
でも、FXはバカラと同じ二択で、面白そうですね!
akasakatenさん、こんばんは!
年甲斐も無く、3連休に計24時間、ポーカーテーブルで過ごしていた為、返信が遅くなってしまいました。
ビール党の当方としては、国内のアミューズメント・カジノでのポーカー・トーナメントは、まだ発泡酒の様なもので、それなりに楽しめるのですが、お金を賭けずにするバカラは、例えるとノン・アルコールビールの様なもので、やる気が沸いてきません。(横目で見るだけです)
(そのせいか、店の若いディーラー達から、「マカティさんはポーカー専門で、バカラはゲームしないのですか?」とか聞かれ、返答に困る場合が多々有ります……)
それはそうと、『ラスト・クリスマス(1996)完結編』も、8割方は仕上がりましたので、松の内にはアップする予定です。
(注)但し、舞台が香港なので、残念ながらカジノ・シーンは有りません。返還前の世紀末香港の雰囲気(借り物の土地、借り物の時間)が少しでも伝われば幸いです。