リゾカジ カジノレポート

ロスト・クリスマス(1995)③

* マカオ 2021/ 12/ 06 Written by マカオの帝王

コメント( 2)

■ 1995年12月25日(月)

昼前に目が覚め、フルーツ・バスケットの中のバナナを1本齧る。
すぐにでもチェックアウト出来るよう、荷物を整理する。

予定通り、午後1時に保安要員がドアをノックする。
昨日と同じ取調室に入る。

”代理” が口を開いた。

「やぁ、日本人よ、今日もお前に関し、良い話と悪い話が有る。どちらから聞きたい?」

「今日は悪い話からお願いします」と答える。

「そう来たか……、では一つ目、依然としてボスとは連絡が付かない。よってこのままだと残念だが君の本日中の釈放は困難である……」
目の前が真っ暗になる。

「次に良い話だが、被害者はお前が反省し、二度とこのようなことをしないと自分に対し謝罪し、その上で病院の検査代とクリスマスの稼ぎ時の休業補償、それともうすぐ生まれてくる子供に対するお祝いとして、十分な、“誠意”を示してくれれば、示談で済ませても良い、と言っている」

『それの何処が良い話だ!』と一瞬思うが、長引けば厄介であることを考えれば、カネで片が付けば重畳であると考え直した。

「それで、相手の女性の希望金額は?」

「8,800$だ」

「8,800$! それはまた吹っかけたものだな」

「これは又 ”マカオの帝王” ともあろう人が……、最初はお前が最後にバンカーに張ったのと同額の、32,000$と言っていたのを、それは吹っかけ過ぎだとお前の為に交渉してやったのだぞ! 彼女の毎月の給料の手取りが約8千パタカ(≒約8千HK$)、保安要員に聞いた、お前のバカラの一回の平均ベット額が同じく約8,000$、お前の手持ちのカジノチップが3万8千$、そこからこの示談金分を引いてもまだ約3万$は残る。カジノ内じゃ物足りないだろうが娑婆じゃ大金だ。それに“8”は風水で縁起が良いとされている……」黙って“代理”の話を聞く。

「それでも最初の内、彼女は『それなら、間を取って2万$云々』と中々強情だったが、カジノから提供された監視カメラの映像を見せながらこう言ってやった」

“代理”が葉っぱの浮いた中国茶をすする。

「さてと、これが本件の記録映像だ……、画質が粗くはっきりしないが、最初にそちらの膨らんだお腹が、バカラで真剣勝負中の日本人の右手に当たり、その反動で日本人の右肘が反射的に動き、肘の先が軽くそちらのお腹に “接触した” だけのように見える……、事実、その後の病院の検査でも、母子ともに異常無かった訳だしな……、それにも関わらず高額の示談金を請求し、それを日本人が拒否し、国際裁判にでもなったらどうなると思う? この日本人自身は、日本の大手企業に所属する会社員だ。又、この日本人の兄妹は、日本の最難関の帝都大学法学部を卒業し、現在は日本政府の高級官僚だ。この裁判は厳しいものになるぞ! 下手すればお前さんは1パタカも貰えず、逆に日本人に虚偽答弁で訴えられるかも知れない……」

黙って聞き入る。

「それを聞いて彼女は考え直し、最後に『8は一つより二つの方がもっと良い……』からと、800$だけ上乗せを求めてきたので、それはお情けで認めてやり、“8,800$”となった訳だ……」

今聞かされた“代理”の話を脳内で高速検証する。

『釈放されたなら、手持ちのキャッシュでまずはバカラで一勝負したい! 但し、現状は4万$弱しか無いので、もしここから示談金として“32,000$”も払ったら、残りはたったの8千$弱! これじゃ勝負にならない。 けど、示談金が“8,800$”なら、軍資金としてちょうど3万$残る。これなら、ギリギリ何とか戦える! もし駄目でも、予備の “VISAカード軍団” を投入すれば良い! 幾ら大好きなマカオのリスボアホテルだとしても、このまま、“軟禁” 状態で年を越し“新年快楽!”を迎えるのはご免こうむりたい! そう考えれば、妥当な金額か……』

検証終了、承諾を伝える。

「それなら結構! 今日はクリスマスだしな……、本日はここまで。後は部屋に帰って待機するように」と告げられる。

まだ、午後4時前である。

「承知しました。けど、やけに早いですね?」と尋ねると、

「相変わらずポルトガル人のボスとは音信不通だ。殺人や、カジノ強盗! といった重大事件の場合に使用する、緊急ホットラインも有るには有るが、本件にはそこまでの事件性は無い。示談の目途もついたし、取り敢えず今日出来ることは全てやった。もしボスと連絡がついたなら、またここに来て貰うので、酒は程々にして部屋で休んでいるように……」そう告げられ、退室を促された。

保安要員に付き添われ、部屋に戻る。
今日はルームサービスで、“中国式クリスマス特別ディナー”と白ワイン1本、それにビール1缶をオーダーする。届くまでの間、最早ルーティンと化した、冷蔵庫の中の無料の缶ビール(サンミゲル)を開け、これを一気飲みし、バスタブに湯を張る。

朝食がバナナ1本だった為、先に食事を取ることに決め、ルームサービスの到着を待つ。

再び、”ひとりぼっちのクリスマス・ディナー” が始まる。

ディナー終了。

ほろ酔い気分で湯船に浸りながら考える。

『結局、“クリスマスに香港に戻る”という彼女との約束を果たすことは出来なかった……』


■ 同時刻 香港 啓徳国際空港

@長身のアメリカ人男性がタラップを降り、足早にゲートを駆け抜け、タクシーに乗り込む。

@クリスマス・イルミネーションが煌めく九龍の繁華街を疾走するタクシー。

@タクシーがペニンシュラ・ホテルに到着する。

@アメックス・プラチナカードの国際コンシェルジェ・サービスで急遽予約した、レストランの特等席に案内されるアメリカ人男性。

@そこで待つ竹原典子。

@竹原典子を発見し、破顔一笑するアメリカ人男性。

@両手いっぱいに、バラの花束と、エルメスのバッグ(中身はバーキンのクロコダイル)が入ったオレンジ色の紙袋を抱えながら駆け寄るアメリカ人男性。

@少しはにかみながら、軽く手を振る竹原典子。

@そこへ突然、シェリーが香港人のフィアンセと一緒に登場する。

@流暢な英語で、シェリーが自己紹介する。

@それに笑顔で応えるアメリカ人。

@自分の席に戻る際、シェリーが広東語で、竹原典子の耳元で囁く。
「ノリコ、良い感じの人じゃない? 貴女に逢う為、家族との団欒を捨て、はるばる太平洋を越えて、クリスマス当日にプレゼントを抱えてアメリカから飛んで来るなんて、まるで本物のサンタクロースみたいだわ! しかも実家は大金持ちでその二代目御曹司だなんて、同じ二代目でも私のあの“フェイチャイ(太っちょ)と比べちゃ ”月とスッポン” だわ! イブにマカオのカジノでバカラに夢中になって、電話一本寄こさず、ノリコをすっぽかした碌でなしの “マカオの帝王” のことなんか、この際忘れちゃえば?」

@苦笑しながら頷く竹原典子。

@豪華なクリスマス特別ディナーが次々に運ばれてくる。

@ワインを飲み、ほろ酔いになる竹原典子。

@中国返還を目前に控えた “借り物の土地” 香港での、クリスマス・ディナーが終わり、二組のカップルは “黄金の100マイル” の雑踏の中に消えていった。   
                                        >>>続く
https://www.resocasi.com/res/report/detail?id=2020


このReportへのコメント(全 2件)

2021/12/06(Mon) 15:38

マリタイム

マカオの帝王さん、こんにちは。

「釈放されたなら、手持ちのキャッシュでまずはバカラで一勝負したい!」って、
こういうところが並の人間と違うところですよね。
勉強になります。☆


2021/12/08(Wed) 06:42

マカオの帝王

マリタイムさん、こんばんは!

過去を振り返ると、受験、就職、恋愛、結婚、離婚、転職、etc、といった、人生の節目節目で、ギャンブル欲が刺激され、こうなります。余り、お勧めは出来ません……、反面教師として勉強して下さい。


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