リゾカジ カジノレポート

ヤング “マカオの帝王” THE ORIGIN(1991)「運命の前夜」後編

* マカオ 2021/ 05/ 09 Written by マカオの帝王

コメント( 7)

■ 1991年3月3日(日)回力娯楽場

“平目ちゃん”の、細くしなやかな指から、伏せられた2枚のカードが配られる。

これを、ついつい慣れ親しんだブラックジャックの流儀に従い、2枚同時に確認しようとすると;

(注1)この当時のマカオのブラックジャックでは、BOXに配られる最初の2枚のカードは共に伏せられており、それを座っているプレイヤーが、自分の手でオープンする、という牧歌的なスタイルであった。

(注2)なので、誰も座っていないBOXには、そもそもベット出来ない。

(注3)しかし、カジノ(ハウス)側に立ち、良く考えてみるならば、この方式には以下の問題点があった。

① いちいち客が勿体ぶってカードをオープンする訳だから、ゲームの進行に余分な時間がかかる。(カジノ側の儲けが減る)

② 一人で複数のBOXにバンバン張りたいという、酔狂な(カジノにとって望ましい)客がいた場合にも、座っているBOXにしか張ることが出来ない為、儲け損ねてしまう。

従って、この馬鹿げたルールは徐々に廃れ、ラスベガス方式に変っていった次第です。

『そんなに焦らなくても良いのよ……、貴方は後攻めのバンカーさんなのだから、先攻のプレイヤーさんが2枚のカードをオープンし、その点数を確定させるのを待って、1枚ずつ、ゆっくりゆっくり時間をかけて、9にな~れ、と祈りながら、少しずつ捲るのよ……』
と“平目ちゃん”がこちらにアイ・コンタクトを送ってくる。

それは良かったのだが、チラっと見た際に、1枚は絵札、1枚は”盲ピン(1,2,3)”だと分かってしまった。

『あ~あ、これじゃ1点か2点か3点のどれかだ。やっぱりパチンコ屋だ。もしAならブラックジャックだが、バカラじゃただの1点、座る席を間違えた……、ところでプレイヤーのオッサンは何をゴジャゴジャ時間をかけているのだろう?』

オッサンが2枚とも横から絞り、サイドを確認したところで何やら呟く。

はっきり聞こえなかったのだが、”平目ちゃん”がこちらに向かい、そっと「リョンコ、サンピン(両方とも三ピンよ。大したことは無いわ)」と囁いてくれる。

『成るほど、両方とも6,7,8、のどれか、ということは;
合計数:2点・・・6+6
合計数:3点・・・6+7、7+6
合計数:4点・・・6+8、7+7、8+6
合計数:5点・・・7+8、8+7
合計数:6点・・・8+8
だから、
合計数:2点・・・約11%
合計数:3点・・・約22%
合計数:4点・・・約34%
合計数:5点・・・約22%
合計数:6点・・・約11%
となる訳だ。平均的には真ん中の”4点”か……、尤も、こちらの平均は”2点”だから、オッサンが多少はマシだが、結局は3枚目勝負だ、それにしても遅い……、最高でも6点なのだから、さっさと捲れや、オッサン!』

ようやくオープンされたのは、共に7で、平均値の通りの4点で有った。

こちらがサクっとオープンすると、絵札+3で、平均値よりややマシな3点であった。

『これは3枚目勝負だな……』

そう思いながら、プレイヤーのオッサンの様子を見ていると、何やら深刻そうである。
カードを横にして、ゆっくりと絞り始めた。

『絵札なら4点で確定。盲ピンなら現状アップだから、嬉しそうな顔をしている筈だ。そうじゃないということは……』
「ヤオハイ、サンピン~(またもや、三ピンだぁ~)」とオッサンの嘆き声を耳にする。

『これはこれは……、よっぽど3ピンに愛されているだな? よし、お前の名前はこれから “三ピン” とする。さぁ、6を引いてゼロになれ!』

さんざん絞った挙げ句、“三ピン” が “平目ちゃん”に向かい放り投げたカードは “8” であった。

『8かぁ……、ということは、2点だな。こっちが現状3点だから、圧倒的に優勢だが、勝率83%……(間違い)』

嘆く“3ピン”を横目に見ながら、“平目ちゃん”が記念すべき初勝利の配当、2,850$を付けてくれる。(バカラの、所謂 “4条件” で決まった訳だが、この時は良く分かっていなかった)

『うん? 何で勝ったのか分からないが、“三ピン” が文句を言わないところを見ると、別に “平目ちゃん” が特別サービスしてくれた訳では無さそうだ、それならOK。この調子であと2勝!』

再びバンカーに、今度は千$増額し、4千$をベットする。

“三ピン” は同額の千$をプレイヤーにベットする。
今回は “三ピン” の得点が確定するまで、目の前のカードには触らない。
“三ピン” はまたまたカードをいじくり回すが、その口から出た広東語の意味は良く理解出来た。

「ヤオハイ、リャンコ、サンピン~~(又々、両方とも、三ピンだぁ~~)」

『さすがは、“三ピン”だ。これで5枚連続かぁ……、さて今回は何点かな?』

何やら、ワァワァー騒いだ挙げ句、ややほっとしたような顔で “三ピン” がオープンしたカードは2枚とも “8” の6点であった。

『ほぉー、頑張ったな……、それではそろそろ仕事を始めるか……、1枚目は? うん? この変なモジャモジャは……、♠Aだ。 ということは、もう1枚は “三ピン” が望ましい、と……、取り敢えず “足” は有った。こういう場合はカードを横にして、ピンの数を確認するのだったな……』

当方がカードを横にするのを見た “三ピン” の顔が曇る。

仮に四ピンであったとしても、再チャレンジ出来るのだから、プレッシャーを感じることなく、ゆっくりと絞る。(ちょうどアフリカのサバンナで、ライオンが獲物の縞馬をロックオンし、その息の根を止める刹那のように……)

『さぁ、♢の星達よ、“密(=9か10)”にも“疎(=4か5)”にもならず、カードの上に満遍なく光り輝け!』

祈りは通じた。

程よく散らばった♢は7粒! 勝利の “北斗七星” でAと合わせて “初ナチュラル8” での勝利!

“平目ちゃん” から配当の3,800$を受け取り、これで2戦2勝。
プラス6,650$、目標のマカオ累計+50万$まで、あと僅か3,350$と肉薄した。
これが最後、と再び4千$をバンカーにベットする。

やや疲れの見える“三ピン”が、渋々千$をプレイヤーにベットするのが目に入った。

『意外と簡単だったな……、後一勝で目標達成だ。端数は “平目ちゃん” にチップとして進呈し、さっさとケリをつけて、旨いビールでも飲んで、フェリーに乗り込むとするか……』

そう思った瞬間、目の前を何やら黒い影がよぎった。
お揃いの黒い服を着た三人組が対面に座り、それぞれ1万~2万$と、この回力娯楽場の平場では多めの軍資金を卓の上に積んだ。

”黒い三連星” だった。

その中の頭目と思しき真ん中の男が、煙草を咥えながら此方を見て何やら呟く。

良くは聞き取れなかったが、表情と雰囲気で大体の意味は伝わってきた。
『ほぉー、また会ったな、ちょこまかと目障りな ”日本仔(ヤップンチャイ)”の若造め。大人しく ”21点” でもやっとけや! この ”百家楽(バカラ)”は、”漢(オトコ)” の闘いよ。生半可な覚悟で手を出せば、火傷するぞ!』

三人が2千$ずつ出し、それを合体して計6千$をバンカーにベットする。
最後を自分で絞って決める為、それを上回るべく直近の勝ち分、6,600$をバンカーにベットする。

すると今度は、三人が更に千$ずつを上乗せし、計9千$とする。
その度に、絞り手を示す黄色いプレートを移動する ”平目ちゃん” 。

『駄目だ、どうしてもこの”黒い三連星”は絞りの権利を譲る気は無いらしい。どうしたものか……、そうだ! 良く考えたら、目標の50万$まで、あと僅か3,350$だ。これは5%のコミッションを取られるバンカー側だと、ピッタリに成らないが、10$単位までベット可能なプレイヤー側に、ジャスト3,350$張って勝てば、それでコンプリートだ。よし、決めるぞ!』

急遽バンカーに張った6,600$を下げ、プレイヤーに3,350$をベットする。
カードが配られる。

プレイヤーなので、さっさと絞る。
1枚目は又もや ”三ピン”!

『もう三ピンは見飽きた。2枚目はそれ以外!』

願いは叶えられたが、2枚目は更に悪い”両ピン(4か5)”であった。
絞っても意味がないので、サクッと捲ると、7+4=1点で有った。

尤も、バンカーの ”黒い三連星” も大したことは無く、絵札+4=4点で有った。
三枚目のカードが配られる。

この時感じたのは、最初の2枚で、1対4と劣勢になった場合の、バンカーとプレイヤーの圧倒的な違いである。
自分がバンカーの場合は、現状の1点はさほど重要ではない。
プレイヤーの点数が、4点から最終的に確定するのを待って、それを上回ることだけを考え(念じ)れば良い訳だ。

それに対し、自分がプレイヤーの場合は大変だ。
バンカーの、高々4点を上回ることが出来なければ、ほぼ負け確定、また、死に物狂いで4~7を引き、上回ったとしても勝利が確定せず、逆転負けの可能性が最後まで残る(8のみOK)

『やはり、毎回コミッションを5%払っても、後攻めのバンカーの方が精神衛生上宜しい。プレイヤーは面白くない。そういえば、プロ野球を観る時も、贔屓のチームが後攻の方が、最終回、若しくは延長戦になった場合に、”逆転サヨナラ勝ち” の可能性が有るので好きだったな……、兎に角、今は ”三ピン” を引くことだ。うん? これは……、よし良し、どうやら6か7だな……、ほぼ勝ったも同然……』

そう思い、途中でカードを放り投げると、”抜け抜け” の6点で、合計7点となる。
それを見て、何やら悪態をつきながら、”黒い三連星”の頭目が大きな声で ”リョンピン!”と叫びながら、絞りに入る。

『そんなに都合良く、リョンピン(4か5)が出てたまるか!』
と思いながら、成り行きを見守るが、ジリジリと牌を絞る ”黒い三連星”。

「リョンピン!」との叫び声が耳に突き刺さる。

この瞬間、勝ちは無くなり、負けか引き分けのどちらかとなる。
プレイヤーの悲哀を痛感させられる。

「テンガー!(真ん中に点が付いて、”5”に成れ!)」
と声を揃えて叫ぶ ”黒い三連星”

頭目が “5” を放り投げる!
どうやら、奴らの ”ジェット・ストリーム・アタック” を食らったようだ。

バカラの勝ちが3,300$となる。
再び ”黒い三連星” が3,000×3=9,000$をバンカーにベットするのが目に入る。

思考停止状態に陥り、バンカーに3,000$をベットする。(他力本願モードに突入)
プレイヤーは誰もいない。

“平目ちゃん”がサクッとオープンしたのは、絵札+9=9点!

“黒い三連星”は懸命に絞るが、一歩及ばずの8点で負け。
バカラの勝ちが300$となる。
ここで漸く我に返る。

『まったく、何て様だ……、他力本願などもっての外、どうやら、このバカラの”華”は、バンカーに最高額をベットして、自ら絞って勝利を決める! これに尽きる。そうと分かれば、次はバンカーに10,300$ベットし、これに勝てば目標達成! 良し、決めるぞ!』

バンカーに10,300$をベットする。
すると、”黒い三連星”がベットを下げる。

『良し、これで最終決戦だ!』
そう思いながら、ベット締め切りの鐘が鳴るのを待つ。

“平目ちゃん”が鐘を鳴らす、正にその直前に、”黒い三連星” が3,500$×3=10,500$をバンカーにベットする。
唖然としている内に、締め切りの鐘が鳴り響く。

再び、”他力本願”を余儀なくされる。
“平目ちゃん”がサクッとオープンしたのは、絵札+8=8点!

“黒い三連星” は懸命に絞るが、又もや一歩及ばずの7点で負け。

バカラの収支がマイナス1万$となる。
納得が行かない。

『まったくもう! 邪魔な ”黒い三連星” だ。1回位勝てよ! けど、こうなったのも自分にも一部責任がある。此方の軍資金が卓上の2~3万$だと思われているから、自分達の資金を合体させれば、それを上回ることが出来る! と舐められた訳だ……、ところがどっこい、元手+ブラックジャックでの勝ち分を合わせれば、ポーチの中にはまだキャッシュが12万$有る! この内2万$は番号続きの新札なので予備に置いといて、残りの10万$を一気にチップに交換し、先ずは奴らの気勢を削ぐとするか?』

ダンヒルのポーチから千$札100枚を取り出し、卓上に叩き付ける!
意表を突かれた ”黒い三連星”の動きが止まる。
“平目ちゃん” が1枚ずつ、紙幣鑑定機に通す。
手持ち無沙汰となり、煙草を取り出す。
(卓上でタバコが吸える、古き良き時代であった……)



待つこと5分、1万$チップ10枚が手元にやってくる。

これを卓上に積み上げる。
VIPルームじゃワンベットだが、平場では壮観だった。

『どうだ! 今1万$を失ったとは言え、まだ我が軍は総勢12万$あるのだぞ! 他にキャッシュの予備も2万$有る。ただ、これをオールインするつもりは無い。所謂 “Fleet in being(現存艦隊主義)”で、お前達の動きを牽制し、この卓上の主導権を握り、バンカー側で思いっきり絞って勝利する為だ。もうお前達にバンカーで絞らせはしない、そんなに絞りたいのなら、プレイヤーに張ることだ。分かったか!』

バンカーに20,600$をベットする。
“黒い三連星” は、何やらヒソヒソと話し合った後にバンカーに張るのを諦め、プレイヤーにジャスト1万$をベットする。

それを確認して、バンカーへのベットを元の10,300$に戻す。
”黒い三連星” はそのまま。
カードが配られる。

まずはこれを勝ってチャラに戻し……、との算段であったが、いきなり“黒い三連星”の頭目に、『小僧め! やらせはせんぞ!』とばかりに、絵札+9=ナチュラル9! を羅紗の上に叩きつけられる。

これで戦意を喪失し、チラッと見て(絵札と盲ピン)放り投げる。
負けが2万$を超える。

ただ、次戦はあっさりとこちらがナチュラルで勝利。

その後、一進一退で時が過ぎる。
(世の中に、“ビギナーズ・ラック”との言葉があるが、この回力娯楽場における “初バカラ” において、それは無かった。ただ、様々なギャンブルを長年続けて思うに『所謂 “ビギナーズ・ラック”なる現象は有るかも知れないが、それ自体はあまり愉しい? 経験では無い筈……』と言うことだ。何故なら、訳も分からない内に、結果として勝利して、手元に配当が付けられたとしても、それは単にお金が増えただけで、嬉しいことは確かだが、所詮それだけである。まだ脳内に、本能的な快感を報酬として認識し、その報酬を求め続けるために存在する、“脳内報酬系” の回路が確立されていない為、所謂 “快楽物質(ドーパミン)” が僅かしか分泌されていない状態で、真のギャンブルの悦楽を感じられる筈は無いのである。同様の依存物質である、酒(アルコール)やタバコ(ニコチン)も同様で、皆さんが生まれて初めてお酒を飲んだり、タバコを吸ったりした時も、これを美味しいとは思わなかった筈……、ただ、そうした行為を繰り返す内に、脳が学習し、脳内に報酬系の回路が一旦確立されると、ドーパミンの分泌が促され、その結果として強烈な快感を得られるようになる訳だ!)

この、勝ったり負けたりする間に、いままでブラックジャックでは感じたことの無かった、このバカラというゲーム独特の展開にさらされる内に、伏せられた2枚のカードを絞る両手の指先の感覚と、目から入る視覚情報が結合し、当方の脳内に新たな報酬系の回路が次々と確立されるのを感じていた。

『中々、このボックス圏内を抜けられないが、段々と要領が掴めてきた。このバカラの良いところ(怖いところ)は、自分が絞って勝つと愉しいのは勿論だが、自分が絞って負けても、ある種の“納得”がいく(いってしまう)ということだ。何故なら、この勝負の結果は、どんな絞り方をしようと、ノーモアベットの鐘が鳴った瞬間に決まっているのだから……、クヨクヨしても仕方がない。まだ軍資金が有るのなら、次の勝負で勝てば良い。それどころか、倍掛けすれば一気に挽回出来る……』
一進一退とはいえ、毎回コミッションを払うバンカーに、1万$オーバーを張っている為、コミッションの分だけ少しずつ削られ、-18,500$となる。

『うーん、毎回バンカーで絞れるのは良いが、連続して勝てない……、良くて2連勝。ただ、あまり連敗も無い。順番だと、次はバンカーが勝つ筈……、良し、ここは2枚(=2万$)で、まずは原点復帰だ!』
バンカーに2万$をベットする。
”黒い三連星” はプレイヤーに15,000$をベットする。

三人でワーワー言いながら絞った挙句、2+5=7点がオープンされる。
それに対しこちらは、絵札+3ピンであるところまでは確認済。

『ここまでは互角。真ん中に一つ付けば負け無し!』

しかし、付かない……
そのまま絞ると、二つ目は辛うじて付いた。
7対7の引き分けである。

この引き分けをどう考えるか……、思案のしどころであった。

(注)尚、当時のマカオにおけるバカラの “とんでもルール” の一つに「引き分けの次のゲームでは、オリジナルベットの取り下げ、減額、サイド変更不可!」という、今から考えると無茶苦茶なものが有った。その結果として、勝負手が引き分けに終わり、次戦で反対側が勝ちそうだ(元の側が負けそうだ)……、と予想した場合、客に出来る唯一のことは、“反対側に同額、若しくはそれ以上” をベットすることであった。これはカジノ側にとっては、卓の総額が増える(≒コミッションが増加する)為、結構であったが、客に取っては好ましく無い為(もしそれがオールインなら、納得がいかないサイドにベットした状態で、最後の勝負に臨まざるを得なくなる)数年後には撤廃された。

ここを勝負と考えたのか、”黒い三連星” が5千$上乗せし、今までの最高額である2万$をプレイヤーにベットする。

『このままか? それとも上乗せか……』

その時、何やらディーラー席に動きがある。
不愛想なオバハンのディーラーが登場。
どうやら、“平目ちゃん” のシフトが終了するようだ。

『うーん、そろそろ疲れてきた。明日は月曜日だ。待てよ! もし次バンカーに3万$ベットして勝てば、コミッションを差っ引いてジャスト1万$の勝利! 目標達成だ! “平目ちゃん” のディーラーもこれが最後らしい。後1枚上乗せし、3万$で最終決戦だ!』

鐘が鳴る直前に、1枚上乗せする。

”黒い三連星” がこちらを見て、ニヤリと笑った(ような気がした)

ベットの締め切りを告げる鐘が鳴る。
カードが配られる。

またもや、三人はワーワー言いながら絞った挙句、真ん中の絞り手である頭目が、「ヤオハイ(またまた)、チャッティン(7点)……」と呟きながら、絵札+7=7点を場に晒す。
それに対しこちらは、リョンピン(4か5)+盲ピン(1から3)であるところまでは確認済。

『さて現状は……、5で負け:1/6、6で負け:2/6、7で引き分け:2/6、8で勝ち:1/6……、ちょっと苦しいが、まだ何とかなる(そうでないと困る)まずはこのリョンピンを “5” に持っていき、五分五分にするぞ!』

気合を入れて歯を食いしばる為、直ぐに折れる中国製ではなく、日本から持参した日本製の噛み応えのある、“爪楊枝” を取り出し、口に咥える。

ゆっくりと絞る。
脳内に確立されたばかりの “報酬系の回路” が活性化する。

カードの中央に徴(しるし)が見える!
ドーパミンが湧き出るのを感じる!
♢5、であった。
これで五分五分に追いつく。

ここでハタと考える。
『この盲ピンを普通に絞ると、中央上に徴(しるし)発見!・・・2/3の確率で勝ちOR引き分け、中央上が真っ白!・・・1/3の確率で負け決定、となる訳だが、これは何だか面白くない……、そうだ! 両端を折り曲げてワザと見えなくし、気合を込めて一気にオープンする! それが真っ白なら、“2” で引き分け決定。真ん中がもし “♠” のモジャモジャなら、負けが決定だが、その確率はたったの1/12! ロシアン・ルーレットの半分だ。逆に小さな “♠” なら、“3”で即勝利決定!という訳だ。それ以外の、♢、♡、♧、の場合は “1か3” のどちらかなので、五分五分の勝負継続となる。良し、引き分けなど不要! いざ、勝負!』

一気に卓上にカードをオープンする。
“♧” で、一瞬黒くて小さい徴(しるし)が見えたので喜んだが、よく見るとスペードじゃないことに気が付く。

勝利も敗北もないまま、孤独な絞りは続く。
ここで状況をクリアにする為、1枚目の “♢5”、を“平目ちゃん”に渡し、両サイドを折り曲げ、中央に“♧”マークのある、1か3のいずれかのカードを対面の “黒い三連星” に良く見える様、右手に握り突き出す。

漸く状況(五分五分)を理解し、熱が入る “黒い三連星”

さて、愉しい愉しい残業だ。
脳内では、この短時間に突貫工事でドーパミンを分泌すべく構築された、“報酬系の回路” が, この悪魔のゲーム “バカラ” の醍醐味をたっぷりと味わえるように仕事に邁進する。
(これが本当の “働く細胞?”)

新しい爪楊枝を咥える。
(後年の “マカオの帝王式、バカラの流儀” の大半は、この初戦で確立されたと言える)

折り曲げた両端を元に戻し、右手はカードを抑えたままで少しずつ、左手の指先を斜め上に絞り上げる。

何も見えない。

『このまま真っ白だと、7対6で負けだ。一撃でマイナス3万$は痛い、痛いがそれでもまだ今回の遠征ではトータルでプラスだ。それで良しとし、元のブラックジャック生活に戻るとするか……、けど、このバカラは面白い、ここまで別に “ビギナーズ・ラック” らしきものも無く、一進一退でややマイナスなのに何故かワクワクする。もしこれで勝てば? その時は、“冥府魔道” が待ち構えている訳だが、それはそれで一興だ。???今、何か見えたような……』

マカオの海の神様「媽祖」に祈る。
微かに何か丸いものが二つ、視界の中に入ってきた。
(信じる者は救われる)
それは、“ミッキーマウス” の頭部に似ていた。
段々と大きくなる、ミッキーマウス!
もう間違いない、“♧3” だ!

口に咥えていた爪楊枝が折れ、指先の力が抜けた。
“平目ちゃん” にクシャクシャになったカードとコミッションとして1,500$を渡す。

“黒い三連星” が敗北を認識し、項垂れる。
“平目ちゃん” から1万$チップ6枚を受け取る。

ディーラー交代。
“平目ちゃん” が去り際に微かに微笑んだ。

こちらも席を立つ。
まだ、興奮が冷めない。
キャッシュと交換し、歩いてフェリー乗り場を目指す。
喉の渇きを潤す為に、缶ビールを2本買い、フェリーの中で一気飲みする。

『結局、今回の遠征での勝利は;ブラックジャック+6万$、バカラ+1万$の計7万$だった訳だが、最後のバカラは愉しかったな……。バンカー側のみコミッションを5%取られることから、一見プレイヤーが有利なように思えるが、条件を考慮すると、バンカーの方にアドバンテージがあるよだ……。この辺りはじっくり検証してみることにしよう。これでマカオのカジノの愉しみが増えたな……』

その後30年に及ぶ “地獄の釜” が今夜開いたとも知らず、初バカラでの勝利を噛みしめながら、“マカオの帝王” の30回目の週末マカオ遠征は、ブラックジャック:+6万$、バカラ:+1万$、計+7万$、累計:+50万$でその幕を閉じた。



後日譚

■ 1991年6月某日 初芝電産(香港)有限公司 社長室

「急な話だが、来週フィリピンのマニラで開催される、今年のアジア・ミーティングに、当初参加予定だった営業の神内君が大口の商談で上海に出張になったので、君に代わりに行って貰う、これは命令だ」

「命令、ですか……、けど、他にも適任者がいるのでは?」

「あぁ、君のマカオ仲間の池上君も同行するぞ、なーに、昼間に形式だけ会議に参加して、夜は宴会+カラオケ、週末はゴルフで駐在員同士の親睦を深めるのが目的だ。ゴルフをパスして自由行動もOK、それに、マニラにもカジノは有るぞ!」

「……、成る程、社命とあらば了解しました!」

社長室を出る際、何だかワクワクしてきた。

『来週は初マニラだ!』


このReportへのコメント(全 7件)

2021/05/10(Mon) 15:57

minaminami

いつも楽しく拝見させていただいております。
古き良き鉄火場時代のマカオが懐かしく思えます。

重箱の隅をつつくようで大変恐縮ですが「バカラの、所謂 “4条件” で決まった訳だが、この時は良く分かっていなかった」のくだりは3条件では?とふと思った次第です。

コロナ禍で楽しみが少ない中、ここを眺めるのが気分転換になっております。
続編も期待しております!


2021/05/10(Mon) 20:56

マカオの帝王

minaminamiさん、お久しぶりです。

ご指摘の通り、“4条件” ⇒ “3条件” ですね。

最近、ポーカーばかりで、バカラから遠ざかっている為、つい筆が滑ってしまいました。

恥を忍んで白状すると、GW前にこの後編をアップして、大阪へポーカー遠征に出かけたのですが、どうやら正常に送信されていなかったようで、かなり間隔が空いてしまった次第です。

尚、このGW期間中の大阪遠征の結果は;

前半;プライズ10万相当の、 小規模トーナメント・・・ 優勝!
(これは嬉しかった!)
中盤*プライズ1500万相当の大規模トーナメント・・・バブル
(10時間飛ばずに耐えたら、入賞(最低6万)だったのに、8時間半で耐えきれずKハイフラッシュでオールインしたらAハイフラッシュにコールされ、終了・・・残念)
後半*プライズ50万相当の、中規模トーナメント・・・準優勝!?
{最後の最後で、当方のQQが相手のT2の2ペアに負け、2位に終わる)

殆どのトーナメントで最高齢ですが、若者相手に遊んで貰っています。

次は【マニラ編】です! 


2021/05/11(Tue) 13:21

minaminami

ご活躍のようで何よりです^^。
ポーカーは日程の都合上オンライン少々とワンデートナメ限定のひよっこ選手ですが、
いつの日かご一緒できる日を楽しみにしております。

最後にマカオリングでプレーした時・・・
ミドルからの最小レイズに対しCOのTTで10BBリレイズイン⇒BBがコールしヘッズアップ
フロップT72レインボーでBBポットベットに倍レイズ打ったら15万HKドルのオールインが返ってきましたw 喜んでスナップコールしたら相手は44ポケット。頭を抱えて「アイヤー」と叫んでいましたがターン・・・4。リバー・・・4で一気にスタック吐き出してあいやーと叫んだのは僕の方でした・・(涙)


それ以来身の丈に合わないリングはせず、ひよっこ胆力に会うレートでしか遊びませんw
もっともバカラの胆力はそれより劣るホビロンクラスw選手ですけど^^。


2021/05/11(Tue) 23:16

マカオの帝王

minaminamiさん、こんばんは!

どうも当方のカードゲームの好みは偏りが有るようで、バカラは大好きだが賭けるのは殆どバンカー、ポーカーも好きだが、プレイするのは殆どがトーナメントです。

何故かと言われても、寿司屋で目の前に美味しそうなマグロがあるのに、他のネタを食べる理由がない、のと同じです。

同様の理由で、マカオという愉しい場所があるのに、何か+αでも無い限り、他の国(地域)のカジノに出向く理由がないので、カジノライフの90%強がマカオとなった次第です。

バカラはリアルマネーを賭けないと愉しめませんが、ポーカーは少額でも、場合によっては単なるポイントやより大きな大会の参加権、等でも十分愉しめるので、セミ・リタイヤした身の上では、丁度良いと言えます。

今週末も、大阪で知り合った30代の韓国人ポーカー仲間の、『誕生日記念(ポーカー)大会』に呼ばれたので、お祝いに出かけ、ノンアルコール・ドリンクで乾杯します。

再見!




2021/05/23(Sun) 14:16

マリタイム

マカオの帝王さん、こんにちは。

BJだと美人ディーラーの仕返しを受けるかもという妄想と、前夜の日本人のバカラプレイを見て感じたものが、バカラを始めるきっかけになり、そのデビュー戦で最後に勝ってしまったことが、その後の運命を決めたんですね。
引かされている状況でも、ディーラー席に動きがあることに気づき、掛け金を計算して勝負に行ったところは、30回の遠征の賜物ですね。見習わないといけません。
30回の遠征で50万ドル勝っていたとのことですが、会社を辞めてギャンブラーとして生きて行こうと思ったりはしませんでしたか。


2021/05/23(Sun) 20:48

マリタイム

追伸
昔の回力娯楽場のネオンの写真、良いですね。!
自分が初めて行ったのは2009年で、当時のネオンも同じだったかは覚えていませんが、
打令のネオンは撮影しました。(笑) 


2021/05/23(Sun) 23:48

マカオの帝王

マリタイムさん、こんばんは

1991年頃のレートだと、50万HK$は約1千万円でした。
ただ、当時はバブルで、大手企業の海外駐在員は、福利厚生や国内給与を合わせると、年間約2千~超の収入が有り、仕事もそれなりに面白かったので、“週末ギャンブラー”で十分でした。
ただ、日本に戻ってからは、海外での “酒とバラの日々” が忘れられず、1999年頃には、“世紀末ギャンブラー” をめざし、会社を辞め、約1年間、日々ギャンブルに打ち込んだ経験が有ります。
ただ、収支はプラス(約300万円)でしたが、退職金と失業保険というガードを使い果たすと、続かなくなり、渋々会社員に戻った次第です。


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