リゾカジ カジノレポート

ロスト・クリスマス(1995)①

* マカオ 2021/ 11/ 25 Written by マカオの帝王

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ロスト・クリスマス(1995)

■ 1995年11月下旬 日本 大阪

「もしもし、竹原さん? 来月のクリスマスだけど、やっと予定が決まった。今回は24日のクリスマス・イブから26日までの3日間は丸々香港に滞在することにしたよ。二人のこれからのことについて、ゆっくり話をしよう。詳しい時間と場所はまた後から電話する。香港を離れることになったシェリーとの九寨溝への最後の“女子旅?”の出発は27日だったね? 少し寂しくなるけど、それはきっと時間が解決してくれるよ……」

国際電話可の電話BOXから掛けるが、国際テレフォンカードの度数がドンドン減る。

受話器の向こうから久しぶりに耳にする、竹原典子の女子アナ顔負けの綺麗な標準語のアクセントが聴こえてきた。
「中々連絡が無いので、もしかしたら日本で誰か良い人でも出来たのかなぁ? 何てあれこれ考えていました。だけど、声を聞けてホッとしました。後一ヶ月、楽しみにして待っています。それと、今回マカオには?」痛いところを突かれる。

「あぁ、今回はマカオに行く予定は無いよ、只、もしかしたら香港入りした23日に、日帰りでちょっと寄るかも……」

「そんなことだと思った! だって、“マカオの帝王”さんが、香港に来て、マカオに寄らない筈が無いもの! 別に少しなら良いですよ。勝負が盛り上がって、ディナーに少々遅れても構いませんから、クリスマスには香港に戻ってきて下さいね♡」

「勿論だよ!」と答えるも、

「そうじゃないと、シェリーもいなくなっちゃうし、最近いろいろあって……、兎に角、約束ですよ! クリスマスには必ず香港に戻ってくるって!」

「分かった……、あっカードの残りが殆ど無い、それじゃ又…」

国際テレフォンカードの度数がゼロになり、通話は途切れた。


■ 1995年12月23日(土)夜 マカオ リスボアホテル バカラ卓

『そろそろ手仕舞いだ……、日本から持ち込んだ軍資金の10万HK$はジリ貧で残り約7万ちょい、明日は香港で彼女とクリスマス・イブだというのに、このままじゃ終われない! せめてチャラに戻したい。その為には……、次にバンカーに32,000$だ。これに勝てば雀の涙だがプラス! 浮き分で行きつけのポルトガル料理店でチーズたっぷりのスパゲティ・ボロネーゼをビールで胃袋に流し込み、このリスボアに戻り、上階の部屋で早目に寝る! けど、もし負けたら……、まぁ、その時はその時だ!』

最終ゲームプランは決まった。

今日のMAXの32,000$をバンカーにベットする。

お相手は香港駐在期間中、毎週末どこかのカジノで顔を合わせた40代のマカオ人(頭のてっぺんが禿ているので、勝手にカッパと呼んでいる)

久しぶりに当方を見て、『おや? この日本仔(ヤップンチャイ;日本人の蔑称)も生きとったか…、そいつは結構! 今まで何度も煮え湯を飲まされたが、今宵は少しばかりこちとらにツキが有る様だ。まとめてリベンジさせてもらうぜ!』・・・(以上、雰囲気からの想像)

此方のベット額を確認後、“カッパ” がプレイヤーに同額の32,000$をベットする。

ディーラーが双方にカードを配る。

“カッパ” は一生懸命「ティン!ティン!(付け! 付け!)」と声に出しながら、2枚のカードに念を込める。

結果は5+2=7点であった。

『成るほど、両ピン+ガッタウで、最低:4+2=6点、最高:5+3=8点という状況で、一つだけ付いて真ん中の7点だったという訳か……、やや苦しいが、全てはこちらのカード次第だ!』

1枚目をゆっくり絞る。
足が有る。
少し安心し、2枚目を絞る。
これまた足が有る。

微妙だ……
『3ピンは嫌!』
そう念じながら1枚目を横にすると、それは4ピンだった。

『両ピンは嫌!』
そう念じながら2枚目を横にすると、これまた4ピンだった。

これで非常に有利となる。

『ナチュラル9で即勝利となる確率が50%、ナチュラル8で同じく即勝利となる確率が25%、両方10でゼロとなった場合も、3枚目で8か9なら捲れる(7なら引き分け)さぁ、久しぶりに “マカオの帝王” の底力を見せてやる!』

そう思いながら気合を込めて絞るも、残念ながら1枚目は “10” であった。

当方の絞りを真後ろから熱心に見ていた、多分対面の “カッパ” の子分と思しき20代の男が、「サッピン!(10だ!)」と反対側の“老板(ボス、この場合はカッパ)”に伝える。

それを聞いて、一安心する “カッパ”。

『このまま普通に絞ると、2枚目も “10” になりそうな気がする……、ここは一つ絞り方をマカオ式ブラックジャック風に変えてみるとするか? 既に10だと分かった1枚目のカードを表にして、運命の2枚目のカードをその裏にし、1枚目を0.1㎜ずつ真下にずらす。左上に、何やら曲線らしきものが頭を出したなら、それは “9”、そうでなければ、それは “10” だ! さぁ、後ろの“小カッパ”よ! お前のボスに敗北を伝えやがれ!』

2枚のカードをピッタリ重ねて、0.1㎜ずつ真下にずらし始める。
これぞ正にバカラの醍醐味、バンカー側の絞り手にとって、至福の時間である。
(“9”、なら勝利決定! “10” でもまだ逆転の可能性が有る!)

するとその時、右側に何やら広東語を呟きながら接近する、紫色のカジノ職員の制服を着た、小太りの女性が視界の片隅に入った。

次の瞬間、右手の肘に、柔らかい何かが接触した。

その影響で、右手が一気に3㎜下がり、裏側から見たくなかったもの(忌まわしい“10”!)が目に入った! 
「日本仔!(ヤップンチャイ!) リョンコサッピン!(2枚とも“10”!)」と真後ろの “小カッパ” が叫ぶ!

ゆっくり絞ろうと、一気に絞ろうと、結果は同じだった筈だが、折角の至福の瞬間を奪われたやり場のない怒りから、右腕をスイングすると、ちょうど肘打ちのような恰好になった。

「XXX! XXX!」突然、女性の悲鳴が耳に突き刺さる!

よく見ると、当方の席と、後ろの壁の間は狭い通路となっているのだが、そこを通ろうとした女性カジノ職員の膨らんだお腹に、当方の右肘が接触したようである。

なおも金切り声を上げ続ける女性職員。
(当然、ゲームの進行はストップ)

小太り、と見えたのは誤りで、どうやら妊娠中(それも出産まじか)のようである。

どこからかカジノの保安要員と澳門警察の警官が現れ、当方に何やら早口の広東語を浴びせるが、こちらが日本人であることを告げると、以下のような内容を訛りの強い英語で再度伝える。

『あぁ、日本人よ! お前はマカオにおいて、妊娠中の女性に対して、暴力行為を行った。それはこの地においては見過ごすことのできない重大犯罪である。よって今からお前に対し、然るべき場所で取り調べを行う。直ぐに席を立って一緒に来るように!』
有無を言わさず卓から離され、普段歩くことのない裏の狭い通路を二人に連行される。

『これまで、200回近く来たこのリスボアホテルだが、奥にこんな部屋が有ったのか……』

窓一つ無い、埃っぽい殺風景な取調室に連行され、硬い椅子に座らせられる。
目の前に浅黒い40代のマカオエンサと思しき、制服の警官が座る。

「さてと、今日のところは私がここの責任者だ。本当は、お前のような外国人の場合は、ポルトガル人のボスが調べるのだが、生憎ボスは今日から26日までクリスマス休暇で不在だ。よって私が代理でお前を調べるという訳だ。まずはパスポートからチェックさせてもらう」

目の前の “代理” と称する男が、押収した当方のダンヒルのポーチから、所持品を机の上に並べ出し、最初に年季の入った当方の赤いパスポートを手に取った。

「ふむふむ、どうやらパスポートは本物のようだな……、しかし一体何だ! この入境スタンプは? 1990年から1994年の前半にかけて、ざっと百回以上、増刷してパンパンだ! その後も日本の黄金週間や夏&冬の長期休暇期間等に、何度もマカオ入りしているな? 何故だ? いったい何の目的でこうも頻繁にマカオに来る?」

『そこにマカオが有るから……』と心の中で呟くが、それでは返答にならないので、「ただ、純粋にマカオが好きだからです」と答える。

「ふざけるな! そうそう、肝心のことを聞くのを忘れていた。お前の職業は?」

「日本の家電メーカー、初芝電産の社員です。因みに、1990年~1994年の途中までは、初芝の香港支店に駐在していたので、マカオ入りする回数が多かった次第です」と正直に答える。

「そんな説明で、この私を納得させられると思ったのか? 仮にお前の言う通りだとしよう。その場合でも、お前の行動は謎だらけだ! 偶々だが、私の家の近くに日本料理店が有り、値段もリーザナブルで、料理も口に合うので時々足を運ぶ内に、店のオーナーの日本人と朋友になり、日本人の生活習慣等についてはある程度分かっているつもりだが……」

ここで “代理” のマカオエンサは一瞬間を置いた。

「日本の大企業の香港駐在員が、毎週ゴルフに行く・・・これはOK、毎週カラオケに行く・・・これも辛うじてOK、けれども、毎週マカオのカジノに行く・・・こんなことが許される筈が無い!」

返す言葉が見つからない。

「その店のオーナーも、元々は日本の大手企業の社員だったらしい。最初は香港・マカオのパッケージツァーで訪れたそうだが、偶々訪れたこのマカオに魅せられ、頻繁に足を運ぶようになったそうだ」

黙って頷く。

「すると、どうなったと思う? 彼はギャンブルには殆ど関心が無く、このマカオの街の雰囲気を好きになっただけなのに、会社の上司や同僚からあれこれ邪推され、会社に居ずらくなり、結局自己都合で退職を余儀なくされ、奥さんとも離婚し、こちらで知り合った私と同じマカオエンサと結婚した訳だ……」

心の中で、激しく同意する。

「観光に来ている日本人を見ていると、皆さんお金持ちで、何の悩みも無いように見えるが、日本の社会(会社?)というは、中に入ると外からは見えない縛りがいっぱい有り、何かと不自由なようだな?」

“代理” は喋りながら、ダンヒルのポーチのから取り出した当方の所持品を順番にチェックする。

「うん? これは香港のIDカードじゃないか? お前の言う通りだとして、去年まで香港に住んでいた期間は兎も角、日本に帰国する際、当然返却した筈だ! それを何故今でも持っているのか?」

「何故? と言われても、帰国時に誰からも返却を求められなかったので、記念の意味で……」
と正直に答えるも、

「ふざけるな! それと、このクレジットカードの束は何だ! VISAカードだけで、ヤッ(1)、イー(2)、サン(3)、セイ(4)、ンー(5)、ロク(6)、チャ(7)、パァ(8)、ガウ(9)、サプ(10)……、全部で10枚、それに加えてJCBとアメックスが各1枚、JCBとアメックスは兎も角、何故同じVISAカードを10枚も持っている? おかしいではないか?」

そう言われると、まったくその通りなのだが、正直に説明すると次のようになる。

『それはですねぇ、このマカオのカジノのバカラ卓で、軍資金(10万から20万$)が溶けちゃった時に、カジノにリベンジを挑むとしたら、最低7万$は必要だ。その際に、約3%の手数料で、カジノ内のチップをショッピング枠で購入出来る、国際カード(VISA)の出番となる訳だ。JCBだと、それが何故か4%、アメックスに至ってはショッピング枠では使えない! ので、あくまで予備としてこれらは各1枚ずつ持っている次第だ。まぁ、今まではキャッシュが溶けた後、リベンジモード①・・・VISA(2枚)MAX使用の7万$で勝負! これで挽回すればOK、 残念ながらこれも溶けた場合は・・・リベンジモード②・・・VISA(3枚)MAX使用の10万$で再勝負! これで挽回すればOK、幸いこれまでは、ここで反転攻勢に転じ、カジノの“人質”を無事解放出来ているが、もしそれも溶けた場合は、ファイナル・リベンジ!・・・VISA(5枚)MAX使用(何ならJCBも投入)し20万$で最終決戦! に臨むことが出来るよう、こうして専用カードケースの中に仕舞っている次第です……、駄目だ、こんな説明では、ますます怪しまれるだけだ。下手なことを口走る位なら、黙っている方がましか……』

寝不足と、この非現実感たっぷりの状況に脳が悲鳴を上げたのか、ナルコレプシーの発作が襲ってきた。





「おい! 日本人! 目を覚ませ! まさかとは思うが、今、寝ていたのか! 見かけによらず、良い度胸だな。さて、朝まで付き合ってもらうぞ……」

こうして、1995年のクリスマス・イブは、リスボアホテル内の薄暗い取調室で、その幕を静かに開いた。


>>>続く
https://www.resocasi.com/res/report/detail?id=2015



このReportへのコメント(全 2件)

2021/11/26(Fri) 11:26

マリタイム

マカオの帝王さん、こんにちは。

クリスマスに向けた連載ありがとうございます。
長くカジノに行っていると、色んなことがあるんですね。
続きをお待ちしております。☆


2021/11/26(Fri) 21:17

マカオの帝王

マリタイムさん、お久しぶりです。

この、1995年のマカオでの(ブラック?)クリスマスの話は、“黒歴史” として封印しておくつもりでしたが、コロナも一段落し、街にクリスマス・ソングが流れ出すと、『もう良いか?』と思いだし、公開することにしました。例の “ジャクソン” も後から出てきます。


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