リゾカジ カジノレポート

ロスト・クリスマス(1995)②

* マカオ 2021/ 11/ 29 Written by マカオの帝王

コメント( 4)

■ 1995年12月24日(日)クリスマス・イブ

そして朝を迎えた。

“代理”が口を開いた。

「残念ながら、クリスマス休暇中のボスとは依然連絡が取れない。しかし、このままお前を釈放する訳にもいかない。又、宗主国ポルトガルの友好国である日本人のお前を、罪人共と一緒の留置場にぶち込む訳にもいかない……、うーん、どうしたものか……、ところでお前、何処かホテルは取っているのか?」

「あぁ、昨日の夕方に、このリスボアホテルにチェックイン済です。チェックアウトの予定は今日の12時……」と答えたところで、

「それは好都合だ! よし、お前は一旦、そのチェックインしているリスボアホテル内の部屋にこれから戻る。そして、取り敢えず1泊延泊する。食事等は全てルームサービスで済ませること。但し部屋から一歩も外に出ては行けない。部屋の中でシャワーでも浴びて、少し眠るが良かろう。そして当たり前だが、パスポートその他の所持品は暫くここで預からせて貰う。なーに、問題無ければ最後には返してやるさ。それから、部屋の電話は使えないからな! それじゃ、そうだな……、15時位に保安要員が部屋を訪れるから、それまでは大人しく待機しているように」

「ちょっと待ってくれ! 今日の夕方までには香港に戻らないと……、大切な約束が有るんだ!」

「残念ながら、それは認められない。もし今日中にボスと連絡がつけば、明日にはマカオを離れることが出来るかも? 知れない。今のところ、言えるのはそれ位だ。私も疲れた、家に帰って少し休みたい……、それでは、またな」
そう言い残し、“代理”は姿を消した。

保安要員(2名)に付き添われ、昨日チェックインした部屋に戻る。
早速、今まで何度も泊まったことは有るが、殆ど利用したことの無かったルームサービスを注文する。中国式と西洋式が有り、中国式の方が安かったので取り敢えずそれとビールを頼む。

バスタブに湯を張り、途中でTVを付け、冷蔵庫の中に備え付けの(無料の)缶ビール(何故かサンミゲル)を一気飲みする。

もしや、と思い、受話器を手に取り、ダイヤルを回すが、海外(香港も)は勿論、マカオ内も含め外線は一切使用出来ないようであった。

ルームサービスが届く。
中国式朝定食を一気に平らげ、追加のビールを飲み干し、バスタブに浸かりながら、考える。

『どうやら、今日中に香港に戻ることはほぼ無理な様子だ……、うーん、電話が駄目なら、せめてあの“代理”に伝言を頼むとするか? しかし、一体何と言って頼めば良いのか……、「あぁー、もしもし? こちらは澳門警察葡京酒店分署の署長代理です。貴女とディナーを約束した日本人男性は、当地において妊婦への暴行という重大犯罪事件の容疑者として現在拘束中です。よって当面このマカオを離れることは出来ません。連絡は以上です」駄目だ! これじゃ、余計心配かけるだけだ。まだバカラで熱くなって、スッカラカンになったと思われる方がマシだ。それに、今日中にポルトガル人のボスに連絡がつけば釈放される、とも言っていたな……、それなら、イブは駄目でも、クリスマス当日には解放され、イブの埋め合わせはギリ可能だ。“クリスマスに香港に戻る”という約束も、一応は果たしたことになる。今はその可能性に賭けるしかない……』

バスタブを出て、ガウンを羽織ると、そのままベッドの上で眠りに落ちた。


15時;ベルが鳴る。
ドアを開けると保安要員が二人、こちらのガウン姿を確認すると「さっさと服を着て出てこい!」 と怒鳴られる。

昨日と同じ、殺風景な部屋に連れてこられ、座り心地の悪い、硬い椅子に腰を下ろす。
目の前には、昨日と同じマカオエンサの ”代理” の姿が有った。

「さてと日本人よ、お前に関し、良い話と悪い話が有る。どちらから聞きたい?」

「それでは、良い話からお願いします」と答える。

「宜しい。まず、お前に関し出来る限り照会したが、過去に犯罪歴は一切無かった。また、初芝の社員である、というのも本当だと分かった。それと、本事件の被害者だが……」

『被害者? とは一体誰のことだ』と思ったが、妊婦のカジノ職員のことを指すのだと思い出した。

「病院で検査を受けた結果、母子共に問題無い、とのことであった」

『当たり前だ! 右肘が微かに当たっただけなのに、大袈裟に騒ぎ過ぎだ……』と心の中で思う。

「次に悪い話だが、残念なことに、まだボスとは連絡が取れない。よってお前の釈放については、明日以降ということになる。それと、今日の昼、昨日話した日本料理店の朋友にそれとなく尋ねてみたが……」ここで“代理”は一息ついた。

「どうやらお前は、香港・マカオの日本人社会では、ちょっとした有名人らしいな? 週末毎に今着ているチェルッティのジャケットを身に纏い、マカオの様々なカジノに出没し、時折するブラックジャックでは常に左端のBOXに陣取り、複数のBOXに高額ベットをし、他の客を無視し、それぞれのBOXの主導権を握り、自分勝手にゲームを進める……」

その通りなので、黙って頷く。

「又、主にプレイするバカラでは、罫線に関係なく、常にバンカー側にその卓での最高額をベットし、爪楊枝を咥えながら自らが絞り手となり、幾ら勝ってもディーラーに殆どチップを寄越さず、勝っても負けても長時間プレイを続ける……」

これまたその通りなので、何も言うことが無い。

「人呼んで、“マカオの帝王”だと?……、このマカオの地で、“帝王”と言えば只一人、あの“スタンレー・ホー”その人に決っているではないか? それを幾ら大手企業の一員であるとはいえ、単なる一駐在員が、いや、今は単なる観光客の一人か……、兎に角、そのお前が何故、“マカオの帝王”の名を名乗るのだ? その訳を聞かせてもらおうか?」

『……、それは、日本で有名な連載漫画に、自分が生まれ育った大阪を舞台にした、“ミナミの帝王”というのが有り、それに語呂が似ていたので、大阪人特有の“ノリ”で名乗ってみただけで、それが何故か広まってしまい……、駄目だ! こんな説明じゃ、この“代理”を納得させることは出来ない。これまた、下手なことを言う位なら、黙っていた方がマシだ……』

「だんまりときたか……、まぁ良い。私は職業柄、このマカオでカジノに魅せられ、バカラの虜になり、身を滅す人間を大勢見てきた。自分の収入の範囲内で慎ましく遊ぶなら、日頃の気分転換になるだろう。けど、殆どの人間は、それが出来ない。段々と張りが大きくなり、負けが込み、自らの蓄えを吐き出し、それを取り戻そうと更に大きく張り、そして負け、周囲から金を借り、利子すら払えなくなり、犯罪に手を染め、最後には……、破滅する!」

静かに頷く。

「お前のようなプレースタイルの奴も、今まで何人か見たことが有る。だが皆、早ければ2~3か月、遅くとも2~3年でマカオから姿を消した。それが5年以上もの長きに渡り、延べ百数十回も、バカラで毎回バンカーに1万$弱をベットし続け、生き残ることは至難の業だ。もしそんなことが出来る奴がいるとすれば、それはかの “スタンレー・ホー” の同類だけだ!」

喋り疲れたのか、“代理”は葉っぱの浮いている中国茶を一口飲んだ。

「そう言えば、お前が卒業した日本の大学で専攻したのは、航空宇宙工学だったそうだな? あの“スタンレー・ホー”も学生時代に最初に学んだのは物理学だったと聞いている」

それは“元祖:マカオの帝王(スタンレー・ホー)”の自叙伝で読んだ記憶が有った。

「そしてお前は最初の妻とは一昨年離婚しているな? その辺りの経歴も、何となく似ている、と言えば似ている……」

不意に眠気が襲ってきた。
時計を見ると午後6時であった。
眠気覚ましにお茶を求めると、同じ葉っぱの浮いた中国茶が出てきた。
葉っぱを避けながら、お茶をすする。

「どうやらお疲れのようだな? まあ良いさ、今日のところはここまで! もう部屋に戻って宜しい。明日は少し早く、午後1時にまたここに来るように、以上!」

「今日はやけに早いのですね?」と尋ねると、

「私にも家族が有る、今日はクリスマス・イブだ。今宵位は少々早い目に家に帰り、妻子と一緒に夕食を食べても、主は許してくれるだろうさ……、お前さんも日頃の行いが良ければ、明日には釈放されるだろう……」そう言い残し、“代理”は席を立った。

昨日と同じルートを保安要員に付き添われ、部屋に戻る。

ルームサービスで、“西洋式クリスマス特別ディナー”と赤ワイン1本、それにビール3缶をオーダーする。注文したものが届くまでの間に、冷蔵庫を空け、毎日補充される無料の缶ビール(サンミゲル)を一気飲みする。本当なら、香港のアイランド・シャングリラ・ホテルで竹原典子とのディナーが始まっている時間だ。

駄目元で受話器を取るが、やはり外線は遮断されている。
部屋は外側からロックされており、内側からは開かない。

ルームサービスが届いた。
テレビには、華やかなクリスマス・イルミネーションに彩られた、香港の風景が映っていた。

脳内にハマショーの “ひとりぼっちのクリスマス・イブ” が鳴り響く。

赤ワインと缶ビール(3缶)を一気飲みし、頭の中がクラクラしてきた。
シャワーも浴びず、服を着たまま、ベッドの上にそのまま倒れ込んだ。


■ 同時刻、香港島 アイランド・シャングリラ・ホテル

@カップルで賑わうレストランの中、艶やかな衣装を身に纏い、窓際の特等席で只一人待つ竹原典子。

@そこにウェイターがそっと近寄る。
「失礼致します。お連れ様からの連絡は入っていない、とのことです。念の為ホテルの宿泊部門にも問い合わせ致しましたがまだチェックインされておらず、同様に連絡も無い、とのことです…」

@竹原典子の表情が曇る。

@ウェイターがレストランの入り口付近を振り向く。

@そこには、じっと竹原典子を見つめる、地元の学生風のカップルの姿が有った。

@ウェイターが申し訳なさそうに口を開く。
「お客様、そろそろディナーコースの場合、ラスト・オーダーとなります。入り口の二人は、予約無しに、“もしもキャンセルが出たら……”とのことで当店を訪れたフリーのお客様です。当店と致しましては、予約されたお客様を最優先する所存ですが、生憎本日はクリスマス・イブでして……、もしもお客様が、今この時点でこのお席をお譲り戴けたならば、キャンセル料は頂戴せず、更にあの若い二人の望みが叶うのですが……」

@竹原典子が入り口で佇む二人を見る。

@息を潜め、竹原典子を見つめる学生風の二人。

@小さく溜息をつきながら、席を立つ竹原典子。

@ウェイターが一礼する。

@入り口付近ですれ違い様に、何度も感謝の言葉を口にする若い二人に向かい、軽く会釈する竹原典子。

@ホテルのロビーでシェリーに電話する竹原典子。

@受話器越しに、シェリーの怒りの声が聴こえる。

@電話を切り、タクシーに乗り込む竹原典子。

@クリスマス・イルミネーションで煌めく香港の街を、タクシーは九龍を目指し走る。

@そのタクシーの中、渡し損ねたクリスマス・プレゼントを見つめながら呟く竹原典子。
『さようなら、ワタシの“マカオの帝王”さん……』

                                        >>>続く
https://www.resocasi.com/res/report/detail?id=2017


このReportへのコメント(全 4件)

2021/12/01(Wed) 09:18

くるくる

マカオの帝王さん、

おはよーございます!
是非ドラマ実写版で見てみたいものです(笑)
続きが楽しみです!
(^O^)/


2021/12/01(Wed) 19:46

マリタイム

マカオの帝王さん、こんにちは。
くるくるさん、コメント早すぎ~!

マカオの帝王を名乗るなんて凄いなと、以前から思っていましたが、それが
「自分が生まれ育った大阪を舞台にした、“ミナミの帝王”というのが有り、それに語呂が似ていたので、大阪人特有の“ノリ”で名乗ってみただけで、それが何故か広まってしまい……」
だったとは、くすっと笑えました。

ドラマ実写版は、山田孝之主演だと“ミナミの帝王”じゃなくて“闇金ウシジマくん”になってしまうので、“破門/螻蛄”の北村一輝あたりでどうでしょうか。(←勝手な想像)

続編、お待ちしています。(^O^)/


2021/12/03(Fri) 00:20

マカオの帝王

くるくるさん、こんばんは!

最近NHKで「進撃の巨人」の主なメンバーの若き日のエピソードを描いた、新作を見ました。

別に超大型巨人が出る訳でなく、それどころか、普通の “巨人“ も少ししか顔を出さないのに、初陣から “キレッキレ” のリバイ伍長(まだ一兵卒だった)の姿など、面白かったです。

クリスマスまでには、完結する予定です。


2021/12/03(Fri) 00:35

マカオの帝王

マリタイムさん、こんばんは!

ガンダムに出てくる、赤い彗星の “シャア!” は、今では誰が何といっても、それ以外の名前は当てはまらない訳ですが、The Origin シリーズでは、その由来として;「たまたま疎開先のコロニーの近所に住んでいた、自分と年や背格好のよく似た、甘ちゃん青年(それが、シャア)を謀殺しそのシャア・アズナブルに成りすまし、ジオン軍の士官学校に入った為」などと言われると、『何だかなぁ……』と思った次第です。

ドラマ実写版のモデルは、個人的には”星野源” にでもお願いしたいところです。

一日一話、後3日で完結です。


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