リゾカジ カジノレポート

ロスト・クリスマス(1995)④

* マカオ 2021/ 12/ 14 Written by マカオの帝王

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■ 1995年12月26日(火)Boxing Day

午前9時半、室内電話が鳴る。

『朝っぱらから、一体誰だ?』と思いつつ受話器を取ると、“代理”であった。

「おはよう日本人。今朝、やっとボスと連絡がついた。『犯罪歴の無い、日本の大手企業に属する観光客が、カジノ内で妊娠中のカジノ職員と偶発的に接触したが、病院で検査した結果、母子共に異常は無い。尚、この日本人の兄妹は、日本政府の高官である。また昨日、本件に関し双方の間で示談とする内諾は得ている。さて、この日本人をどうしたら良いか?』と尋ねたところ、『さっさとその日本人を解放しろ!』とのことだ。よって10時までにチェックアウトの準備をすること!」

慌てて飛び起き、荷造りをする。
荷物を纏めて、保安要員と共に取調室へ向かう。
そこには、紫色の制服を着た、カジノ職員の妊婦もいた。

小太りの中年白人男性が、当方に対し下手糞な英語で話しかけてきた。

『これがポルトガル人の “ボス”だな。年齢は“代理”と同じ位か? 第一印象では、“代理” の方が優秀そうだが……』

いつもの硬い椅子に座ると同時に、

「さて、これで関係者が揃ったと……、日本人よ、まずは彼女に一言謝罪するように……」
と、ポルトガル人の葡京酒店分署長に促される。

不本意ではあったが、英語/広東語/日本語で簡単に、「SORRY……、トイムチ……、どうもすみません……」と謝罪する。

「次に、示談金だが……、おっと、その前にお前の所持品一式を返却する。尚、香港IDカードについても一旦は返却するが、これは次回香港の入境時に返還すること。それでは確かめてくれ」

返却されたパスポート、帰りの航空券、カジノチップ、クレジットカード、その他を確認するが問題無し。

「では、日本人よ、ここに示談金の8,800HK$を出すこと」と言われるが、現金は約800HK$少々で、残りはリスボアのカジノチップ(38,000HK$分)であることを伝えると、

「うーん、参ったな……、まぁ、同じようなものか?」と呟きながら、妊婦を呼び寄せ、何やら広東語で相談する。

妊婦が頷く。

「チップでもOKだそうだ。それでは、現金800HK$と、チップ8,000HK$分をここに出すこと」

黙ってテーブルの上に揃えて置く。

ボスがそれを確認後、妊婦に示談書と思しき文書にサインするよう促す。
妊婦がそれにサインする。

次に当方にもサインを促す。
当方がサインし示談成立。

Boxing Day の贈り物を受け取り、笑顔で妊婦は部屋を出て行った。

「では、自分はこれから本署に挨拶に行くので、後は宜しく頼む。それでは」
と言い残し、ボスが姿を消す。
“代理” と二人きりになる。

「お前と話すのも、これが最後だ。それにしても、一つ分からないのは……、お前の話によれば、今回の旅行の目的は、24日のクリスマス・イブの夜に香港で、以前より親交の有る、香港在住の魅力的な日本人女性にプロポーズすること、だった訳だな?」

その通りなので頷く。

「それなのに何故わざわざ前の日にマカオに移動し、カジノでバカラの大勝負をする必要が有る?」

「それは……」と言いかけて、過去の人生の様々なシーンが脳裏に浮かんできた。

@大学受験の前日、下見に訪れた試験会場近くのパチンコ屋で一心不乱に玉を打ち続ける“マカオの帝王”。

@サークルの一つ後輩の女の娘をデートに誘う前日、大阪ミナミのパチンコ店で、“一発台”(=台の中央に釘で囲まれた特別入賞穴が一つ有り、殆どはその傍をかすめるだけに終わるが、何かの偶然(数千発に一度)でその穴に入賞すれば、約4~5千発の玉が出放題となるというタイプのパチンコ台の総称。余りにも射幸性が高い為、その後禁止されるが、賭博をテーマとした漫画(カイジ)に登場する、“沼”のモデルのようなもの)から離れようとせず、只管打ち続ける “マカオの帝王”

@就活の最終面接の前日に、深夜喫茶の片隅で当時一世を風靡したゲーム機に打ち興じる “マカオの帝王”。

@初芝に入社後、東京に出張し、重要な会議の前日に新宿歌舞伎町の裏通りにある “XXX” で、朝まで “XXX” する“マカオの帝王”

@最初の結婚式の前日、香港に赴任する前日、いつもその節目節目にギャンブルが有った。
(そして殆どの場合、その節目の直後にも……)


けど、そんなことを言っても、“代理” が分かってくれるとは思えないので、オブラートに包み表現を変えて説明を試みる。

仕方なく、「ほら、人は誰でも、人生の大事な節目に臨む際、それぞれの信じる“神様”に祈るものでしょう? それが自分の場合は、“ギャンブルの神様”だという訳です。明日はどうなるか分からない、良い方に転べば万々歳だけれども、悪い方に転べば惨めな明日が待っている……、ほら? これってまさにカジノそのものでしょう? その予行演習というか、疑似体験をする為に、どんなにスケジュールが詰まっていても、前日はマカオで一勝負したかった訳です……」

中国茶をすすりながら、“代理” が口を開く。

「それがお前の“流儀”という訳か……、知っての通り、マカオの公務員や警察官は、旧正月の期間中を除いてはカジノでのプレイはご法度だ。よって自分には、バカラの醍醐味は分からないが、お前の言うことは何となく分かったよ……、ところで、何人かのジャンケット屋や、カジノのディーラーにお前のことを尋ねたが、彼らは異口同音にこう言っていたよ……」

“代理”が一息つく。

「あの“日本鬼子” は “リーハイ!(≑強い!)、バカラで軍資金の7割を溶かしても、ブラックジャックでコツコツ巻き返し、バカラ卓に戻ってくる。罫線に一切惑わされず、常にカジノの控除率が尤も低い、バンカーの本線にしかベットしない。そして一晩に数回訪れる、どちらが勝ってもおかしくない展開の勝負で、自らカードを絞り、負けを引き分けに、引き分けを勝ちに持ち込む。その後は深追いをせず、切りの良いところで手仕舞う、これをされちゃあ、お手上げだ、とね……」

黙って頷く。

「そうだ! 最後に肝心なことを忘れていた。これにサインしてくれ」

そう言いながら、“代理” が1枚の書類を取り出した。

そこには、何やら中国語で、【1995年12月23日 葡京酒店 百家樂(XXX卓)日本人 庄:32,000HK$】と記されていた。
どうやら、最後の勝負の際、当方がバンカーにベットした金額のことであるらしい。

『これは、まぁ、その通りだなぁ……』

そう思いつつ、言われるままにサインすると、1万$チップ3枚と千$チップ2枚が、厚目のビニール袋に封印された状態で、机の上に置かれた。

「今日は確か、“Boxing Day” だったな? 日本の “マカオの帝王” には物足りないかも知れないが、私からのプレゼントだ! 封を破り、確認してくれ」

言われるままに封を破ると、32,000$有った。
問題の事件発生時の、当方の張り分であることは分かったが、

「しかし、あの最後の勝負で、スタンディング7だったプレイヤー側は、無効(ノーゲーム)で納得したのですか?」と尋ねると、

「勿論、納得する筈が無い! 彼らはバンカー側の絞り手のお前が拘束され、姿を消したことを理由に、自分達の勝利を声高に主張したそうだ……、けど、それにはお前と同じバンカー側にベットしていた何人かが猛反対し、双方が黒服を呼ぶことを要求し、最終的にお前が絞る筈だった、バンカー側の3枚目のカードをシューから引き出し、それをディーラーがオープンし、ゲームを再開し、その結果に全員が従う、と決まった訳だ……」

『それは、まぁ、尤もな裁定だなぁ……』と心の中で思った。

「そして、ディーラーがシューから取り出した運命のカードが、引き分けとなる “♢7” だったと言う訳さ。結果的には、双方納得し、騒ぎは収まったそうだ。そういう訳で、お前が最後にバンカーにベットしたこのチップは生き残り、持ち主であるお前にこうして返還された次第だ……」

“代理”が、何処か遠くを見るような眼差しで呟いた。

「まるでこのマカオの地のようだ。400年前、欧州人の宣教師どもの都合で中国から割譲され、また数年先には、今度は北京の共産党の都合で、中国本土に返還される。そこに住む人間のことなど、まるでお構い無しに……」マカオエンサ(ポルトガル系と中国系の混血)の“代理”は、小さく溜息をついた。

「ところで、今から真っ直ぐ香港に戻るのか?」

『これから最後に一発勝負!』とも言いだせず、黙り込む。

「これは、愚問だったな……、この澳門の中心である葡京酒店で、手元に6万$強の軍資金を持つお前が、帰国便は明日の午後だったかな? 一勝負しない筈は無いか……」

時計を見ると、午前11時半であった。

「さぁ、それではお前に関する取り調べは全て終了だ。今なら、ホテルのチェックアウトにも間に合う筈だ。もし来年の旧正月に、この葡京のバカラ卓で勝負中のお前さんに出会ったら、運試しにバンカーに1回だけ800$、乗らせてもらうよ! 宮仕えの身ではそれが限界なのでな、再見!」

最後に “代理” に一礼し、1995年のクリスマス期間を過ごしたリスボアホテル内の取調室を後にした。ホテルの受付に行き、延泊及びルームサービス代金をアメックスで精算する。(いざという時に備え、カジノ内で使えるVISAカード軍団は無傷で温存)

次に、国際電話(香港含む)を掛ける為、暇そうなホテルの男性スタッフを呼び、100HK$札1枚と100マカオパタカ札1枚を取り出し、こう伝えた。

「今から私は、公衆電話で国際電話を掛けるつもりだ。よってマカオパタカの硬貨が多数必要である。そこでこの100パタカ札を、全て硬貨と両替して欲しい。出来れば5パタカが良いが、1パタカが混じっても構わない。但し、急いでくれ。今から10分以内に両替出来たら、この100HK$札はお礼として君に進呈する」

男性スタッフは100パタカ札を握りしめ、小走りに消えた。

7~8分後、息を切らしながら、男性スタッフが戻ってきた。
ポケットから、八角形の5パタカ硬貨・・・17枚、丸い1パタカ硬貨・・・15枚を取り出す。

約束した100HK$札1枚をお礼として手渡し、5パタカ(17枚)をチェルッティの右のポケットに、1パタカ(15枚)を同じくチェルッティの左ポケットに入れる。

国際電話可能な公衆電話に5パタカを投入し、香港の竹原典子に電話する。
いつまでも呼び出し音が鳴り続ける。

『やはり駄目か……、まぁ、無理もない。クリスマス・イブの約束を、何の連絡も無しにスッぽかした訳だからな……、明日は朝からシェリーと九塞溝旅行の筈だし、今から香港に戻ったところで、連絡がつかなければどうしょうもない……』

受話器を下ろす。

元々荷物は少な目だが、カジノ内に持ち込み禁止のスーツケースをフロントに預け身軽になり、

巾着1:生き残りのカジノチップ(62,000HK$)・・・軍資金!
巾着2:香港ドルの硬貨専用(バカラに於いて100$単位で賭けた際に発生する、分厚い5HK$硬貨多数、尚これは香港の空港で国際電話を掛ける際に重宝する)
巾着3:マカオパタカの硬貨専用(主に国際電話や市内循環バス等で使用、今回は普段より多い)
その他:パスポート、帰りの航空券、クレジットカード専用ケース、煙草とライター、常備薬(目薬&正露丸)爪楊枝、等 をダンヒルのポーチに入れる。(ダンヒルの長財布はジャケットの内ポケットに)

これにて準備完了。

犯人は犯行現場に舞い戻る!? と言われるが、“事件” の発生したバカラ卓に自然に足が向く。

イギリスの植民地である香港は、“Boxing Day”の祝日であったが、真っ昼間だからか、卓は閑散としていた。

(注)この12月26日の「ボクシング・デー」とは、イギリスと旧イギリス植民地の多くで残る伝統的な祝日であり、クリスマスに仕事をして家族と過ごせなかった郵便配達員、バトラー(執事)や使用人達のために定められた休日となります。教会が貧しい人々のために寄付を募って設置をしたクリスマス・プレゼントの箱(BOX)を空ける日「Boxing Day」が語源となります。

『あの“カッパ”のおっさんもいない。まぁ、それも無理はない。奴と今まで遭遇したのは、殆どが真夜中だ! 多分、所謂 “夜の世界の住人” なのだろう。しかし、そうなるとこんな “熱” を感じられない卓で、ミニマムちょいしかプレイヤー側に張っていない、貧乏人相手に勝負して負けるのも癪だ……、さて、どうしたものか?』

するとその時背後から、懐かしいようで懐かしくない、あの甲高い “奴” の声が聞こえてきた。
振り返るとそこに、同じ歳の “マカオエンサ” のジャンケット屋、ジャクソンの姿が有った。
                                        
                                         >>>続く
https://www.resocasi.com/res/report/detail?id=2021


このReportへのコメント(全 2件)

2021/12/15(Wed) 20:30

マリタイム

マカオの帝王さん、こんにちは。

次回、きっとバカラで8,800HK$を取り返すんでしょうね。☆

ところで、パチンコですが、僕は梅田の阪急東通り商店街の大東洋や大都会に行ってました。
ゼロタイガーがまだあった時代で、“一発台”も打ったことあります。
HEP NAVIOがナビオ阪急だった頃です。(←古い)


2021/12/15(Wed) 23:28

マカオの帝王

マリタイムさん、こんばんは!

バカラで目指すは “10倍返し” です。次回は “酔拳” が炸裂します。

パチンコはミナミが “ホーム” 、梅田が “アウェー”、といった感じで昔は打っていました。
(POKERに関しても、ミナミが “ホーム” 、梅田が “アウェー”、な感じは今も同じです)

若い頃は、夢の中で “一発台” を打ち、折角入賞したのに、夢だった! と残念な思いをしたことが
何度も有りました……


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