リゾカジ カジノレポート

帝王VS皇帝(1991:マニラ)⑨【完】

* アジア 2022/ 11/ 23 Written by マカオの帝王

コメント( 4)

「マカオの帝王さん! 注意して下さい! 持っているライターに火を点けて、卓上の高額チップをしっかりと自分の両手でガードして下さい!」
暗闇の中、“マニラの皇帝” の声がする。

慌てて手探りで手にしたライターに火を点ける。

「ところで、これは一体どうしたことですか? 火山の噴火の影響?」と尋ねるが、

「それは関係無いと思います。ここフィリピンじゃ、首都のマニラでも電力事情は良くありません。こうした停電は日常茶飯事です」と事も無げに呟く“マニラの皇帝”

「成るほど、けど、いつまでもこのままじゃあ困りますね……」と答えると、

「あぁ、それなら心配有りません」との返事とほぼ同じタイミングで、ディーラーが台の下から非常用の懐中電灯を取り出し、卓の上を照らし出した。

「まさか、このまま懐中電灯の下でプレイ続行ですか?」

「ハハハ、幾らマニラでも、そんなことは有りません。大抵5分以内に復旧する筈ですよ」

その言葉を信じ、薄明りの下でそのまま待つ。
すると、突然フロアが明るくなった。

何事も無かったかのように、ディーラーが懐中電灯を仕舞う。
途中だったシャッフルを終え、第3ラウンドが始まった。

共に順調にチップを増やす。

第3ラウンド前半終了時点;
<マニラの皇帝>・・・+4万ペソ(トータル約22万ペソ)
<マカオの帝王>・・・+4万ペソ(トータル約21万ペソ)

しかし、どうしても“マニラの皇帝”を上回れない。
瞬間的に並びかけることは有るものの、鼻の差で常に後塵を拝す展開となる。

『これが純粋なカジノ賭博だったら問題無いが、これはゴール(30万ペソ)が有る勝負だ! このままだと、“マニラの皇帝”に逃げ切られてしまう……』

ちょうどシューの半ば頃、感覚的にカウント値が大幅+に傾いた瞬間、“マニラの皇帝”が3BOX全てにMAXベットした。

当然、此方も同じくMAXベット。

<マニラの皇帝>
1番BOX・・・BJ!
2番BOX・・・20
3番BOX・・・BJ!

それに対し
<マカオの帝王>
4番BOX・・・19
5番BOX・・・17
6番BOX・・・17

そしてディーラーのフェイス・カードはA!

『これはマズイ! 1万ペソの差を詰めるどころか、一気に引き離される恐れが出てきた……、ここをどう凌ぐか?』

“マニラの皇帝”はB/Sに従い、ノー・インシュアランスで、2つのBJで共に1.5倍を狙う。

ディーラーの「インシュアランス」の声が聞こえてきた。

この時、普段は決してしないのに、何故か5番、6番のインシュアランスBOXに、共に5千ペソをベットする。

驚いた表情を浮かべる “マニラの皇帝”

アクションは当然、オール・ステイで、ディーラーがオープンしたカードは……

ピクチャーだった!

<マニラの皇帝>
1番BOX・・・BJ! ➩ プッシュ
2番BOX・・・20  ➩ 負け
3番BOX・・・BJ! ➩ プッシュ

それに対し
<マカオの帝王>
4番BOX・・・19 ➩ 負け
5番BOX・・・17 ➩ 負け(但しインシュアランスのお陰でトータルではプッシュ)
6番BOX・・・17 ➩ 負け(但しインシュアランスのお陰でトータルではプッシュ)

何とか凌いだ……

“マニラの皇帝”が口を開いた。

「どうして今回、インシュアランスしたのですか? 期待値的には、0.923で不利だと分かっているのに?」

「うーん、どうしてかなぁ……、確かにテンカードが出る確率が4/13ならそうだろうけど、さっきは残りカードの中に、もうちょっとテンカードが多かったような気がしたんだ……、1/3位は有るだろうとね。それなら五分五分だ。ここで一気に引き離されるのは避けたい、但し、フル・インシュアランスで追いつくのも、スッキリしない。その兼ね合いで、2BOXに5千ずつインシュアランスし、ディーラーがピクチャーなら、互いに1万ペソのマイナスで、痛み分けになると考え、それに賭けた訳さ」と答える。

その後、共に張りを落としながらも、手堅く勝ち、チップを増やし続ける。

第3ラウンド中盤終了時点;
<マニラの皇帝>・・・+3万ペソ(トータル約25万ペソ)
<マカオの帝王>・・・+3万ペソ(トータル約24万ペソ)

そろそろゴールが見えてきた。

『スプリットやダブル、BJ等を考慮すると、一手で4~5万勝つことも有る訳だが、普通に考えれば、3BOXにMAXベットでOKとなる、27万ペソが勝負所と言えるだろう。何とか追いついておきたかったが、どうしても1万ペソの差を詰めることが出来なかった……』

カウント値がマイナスなのか、張りを落とす“マニラの皇帝”

当然、お付き合いで此方も張りを落とすが、ここに来てディーラーが弱い。
ローカードからあっさり連続でバストし、双方共にチップを2万程上乗せする展開となる。

ここで、審判役の石田先輩から声が掛かる。

「一旦ストップ! お互い、手持ちのチップを10枚ずつ、分かりやすくキッチリ積んでくれますか? ふんふん、思った通り、今の勝利で“マニラの皇帝”さんがジャスト27万ペソ! それに対し、“マカオの帝王”さんは、ジャスト26万ペソ! 僕の好きな競馬に例えると、“マニラの皇帝”さんが一馬身差を保ったまま、ゴール前の直線コースに飛び込んだ状態です! さぁ、それでは、ゲーム再開です!」

途中から、“カウンティング”は止めていたが、感覚的には所謂 “カウント値” は+領域だと思われた。

『とはいえ、まだシューの途中だ。カウント値もそれほど大きな+では無い(ような気がする)ここでMAXベットは……』

と思った瞬間、“マニラの皇帝” が意表を突いて、3BOX全てにMAXベットを仕掛けてきた!

『しまった! これでは、こちらが同様にMAXベットをしたとしても、ディーラーがローカードからバストした場合、ダブルやスプリットに成らなければ、互いに3万ペソずつの勝利でゲーム・オーバーだ! 第2次大戦中の戦艦同士の艦隊決戦で提唱された、所謂〝アウト・レンジ〟戦法にまんまと引っ掛かった訳か……』

兎に角、此方も3BOXにMAXの1万ペソをベットする。

『天にまします我らの父よ。願わくは“1~3BOX”に屑カードを配り給え。“4~6BOX”にBJを配り給え。ディーラーのフェイス・カードにはハイカードを来たらせたまえ……』とお祈りをするが、“テン”は厳しかった。

<マニラの皇帝>
1番BOX・・・BJ!
2番BOX・・・A、A
3番BOX・・・11

それに対し
<マカオの帝王>
4番BOX・・・12
5番BOX・・・8,8
6番BOX・・・16

ディーラーのフェイス・カードは“7”

どうやら、ここマニラの地では、神頼みは通用しそうも無かった。
ディーラーがいつもの決まり文句、「Business、Business……」を唱える。

『2番のA,Aはスプリット、3番の11はダブルだろうが、そんなに上手く“TEN”カードが配られるものか!』

すると、ここでここまで全てB/S通りにプレイしてきた“マニラの皇帝”が、3番BOXの11を、通常の“ダブルダウンではなく、何と “サレンダー” を示すフィンガーアクションを行った!

驚いた女性ディーラーが、「ダブルダウンの間違いでは?」と何度も尋ねるがそれに対し、頚を振る“マニラの皇帝”

怪訝そうな表情を浮かべながら、ディーラーがBJ+サレンダー分の3万ペソを“マニラの皇帝”に付ける。

頭の中で、この “B/S破りのサレンダー” の意味を考える。

『成る程……、スプリットが共に決まったとしても、27万ペソ(開始時)-3万ペソ(当初ベット分)-1万ペソ(スプリット追加分)+2.5万ペソ(BJ確定分)+2万ペソ×2(スプリット勝利分(仮))=29.5万ペソ、これだとまだ30万未満の為、最後の11で引き分け以上が必要と成る訳だ。それが、ここをサレンダーし、5千ペソを確定させることで、A、Aのスプリットさえ決まれば、ジャスト30万ペソ達成……、その可能性に賭け、ここは“Business”に徹した訳か……』

当方は勿論、“No Business”でビジネス終了となる。

『スプリットした A,A のどちらか一つにローカードが配られたなら、まだワンチャンス有る!』

そう祈りながら見守るが、スプリットのAには、2枚連続で絵札!

ほぼ勝利を確信した、“マニラの皇帝”が、思わずガッツポーズ!

『くっ、決められたか……、けど、まだ終わりじゃない! 8,8をスプリットして4BOXとし、この全てで勝てばギリ追いつく筈……、まずは先頭の12を17以上にすることだ……』

ヒットする。
いきなりピクチャーが出てバスト!
頭が真っ白になり、最終ゲームプランが破綻する。

8,8は当然スプリットを選択する。
1枚目・・・ピクチャーで18。
動けずこれで確定。

2枚目・・・A!
普段ならこの19でステイだが、ここが勝負所と判断し、“ダブルダウン”を宣言する。

『A、2、ピクチャー! 9、8でも良し!』

けれど、無情にも配られたのは、“7” で “16” となる。

『最早、ディーラーのバストに期待するのみとなったが、ラストラストBOXがこのまま勝っても29万ペソ止まりで、30万には届かない。かくなる上は!』

普段ならこのままワン・ヒットだが、B/S破りの、“ダブルダウン”を宣言し、追加の1万ペソをBOX
に差し出す。

またもディーラーが怪訝そうな表情を浮かべながら、「貴方は16ですよ、本当にダブルダウンで良いのですか?」と尋ねてくる。

黙って頷く。

配られたのは・・・”5” でメイク21!

ここまで、自らの勝利を確信していた、“マニラの皇帝” の瞳に影が差す。

『良し! しかし、GOALに到達する為には、ディーラーがバストするしか無いのだから、A~5はどれも広東語で言うところの “チャームトウ(差は少しだけ)”だ……、最早この勝負、当方の勝利は無いがせめて引き分けに!』

バカラで、プレイヤーのナチュラル9に対し、最後まで諦めず、引き分けを目指し絞っている心境になる。

ディーラーの1枚目は ”4” で11!

一瞬、天を仰ぐが……

ディーラーの2枚目は ”2” で13!

『もし、16をステイしていたら、7+5+4+2=18、か……、ここで終了だったな。ディーラーが“7”からバストする確率が、約26%、それに対し、この瞬間に“13”からバストする確率が、約39%……、まだ5割を下回っているが、“マニラの皇帝”と比べると、配牌/展開、共にグダグダだったにしては、ここまで良く戦ったと言える。この状況をバカラに例えると……、プレイヤーのナチュラル9に対し、1枚目・・・“6”、2枚目・・・盲ピン(A、2、3のどれか)が確定し、少し斜めに絞ったところで、妙なモジャモジャが無いことから、♠Aで無いことが確定した場合に、引き分けとなる “3” が出る確率・・・4/13≒約36.4%よりやや上、といったところか……』

勝負を決める運命の最終カードとなる、ディーラーの3枚目は ”10” でバスト!

『テンは我を見捨てなかった、か……』

生き残った3つのBOXに、それぞれ、2万、4万、4万、と計10万ペソが付けられる。

溜息をつく女性ディーラー。

ここで石田先輩から声が上がる。
「はい、二人とも手元のチップを10枚単位で積み上げて下さい。次に千ペソ以下の少額チップは全て高額チップと交換願います。うむふむ、“マニラの皇帝”さん、ジャスト30万ペソ! それに対し“マカオの帝王”さん、これまたジャスト30万ペソ! 双方、同着により、この勝負、引き分け!」

ディーラーに対し、クローズを宣言し、3人共に席を離れる。

キャッシャーでチップをキャッシュと交換しながら、「しかし、最終ゲームは勝ったと思いましたが、結局最後に追いつかれましたね……、ホームのマニラで、しかも得意種目のBJでも貴方に勝てなかった……、又イチから出直しです」と“マニラの皇帝”が口を開いた。

「此方こそ、火山の噴火で足止めされている中、久しぶりにBJで熱い勝負が出来ました。単に、自己のチップの総和を増やすだけじゃなく、相手のチップを横目に見ながらGOALを目指す、という今夜の勝負は、脳の中の、いつもと違う場所を揺さぶられるみたいな、何だかザワザワした感覚を味わえて、愉しかったです」と答える。

最初の両替時のレシートを提示し、手持ちの12万ペソを、US$と再両替する。

それを超過した分については、“マニラの皇帝”がフィリピン(初芝)の適正な社内レートで、日本円と交換します、と提案してくれ、お任せすることに決定。
(注)他社の日本人駐在員が、多額のペソのキャッシュを海外に持ち出そうとして、空港で没収された話を聞かされ、石田先輩も手持ちのペソの大半を、日本円と交換して貰うことにする。

疲れが一気に襲ってきたので、部屋に戻り、冷蔵庫の中のサンミゲルを一気飲みし、そのままベッドで眠る。


■ 1991年6月11日(火)午後6時;ニノイ・アキノ国際空港

2日間、パビリオン・ホテル内で “軟禁状態” で過ごした後、ようやく滑走路が一本だけ、火山灰の除去が完了したとの連絡が入り、正規料金のビジネスクラスのチケット所有者から優先的に搭乗が出来る運びとなった。

火山灰で薄暗い中、マニラ湾に沈む真っ赤な夕日が遠くに見える。

『これで初めてのフィリピンも見納めだ……、マニラのマカティのマリアちゃんとも、当分会えそうに無いな……、けど、“マカティ” という言葉の響きは、何だか良い感じだった……、“マカオの帝王” の別名として、その内、何かで使ってみるとするか?』

ジェット機の機体が滑走路を離れた。

『それでは、帰るとするか、“マカオの帝王” のホーム・グラウンドに……』

                                      【完】   


このReportへのコメント(全 4件)

2022/11/23(Wed) 13:58

マリタイム

マカオの帝王さん、こんにちは。
長編、お疲れ様でした。

相手に勝つための最後の駆け引きの場面は、立派な映画のラストシーンになりますね。
途中、火山爆発や停電などのアクシデントもあるし。
ネットフリックスの関係者は、他社に契約を持っていかれる前に、
映画化契約した方が良いですよ~。

こんなに数字に強くて頭の回転が良い人が集まるんだから、
自分はポーカーはやらずにいようと思います。(笑)
長編、お疲れ様でした。


2022/11/24(Thu) 04:13

くるくる

マカオの帝王さん、

こんばんは!
劇的な終わり方ですね!面白かったです!

サッカー日本代表は劇的ならぬ歴史的な勝利をドイツからあげました!スペインは7-0でコスタリカに勝利!日本は次のコスタリカ戦で勝てばグループリーグ突破です!

ワールドカップ中は不規則な生活になりそうです(^O^)/


2022/11/27(Sun) 21:58

マカオの帝王

マリタイムさん、こんばんは!

ようやく、全国旅行支援による、北九州旅行から戻ってきました。
ハウステンボス、大浦天主堂、太宰府、別府温泉、と北部九州を周遊し、リンも大満足した様子です。

今週末、また宜しくです!


2022/11/27(Sun) 22:09

マカオの帝王

くるくるさん、こんばんは!

ワールドカップのコスタリカ戦は残念な結果になりましたが、これで最終のスペイン戦が大一番となりました! 今後のゲームプラン? としては、1)未明のドイツ-スペイン戦でスペインがドイツに勝ち、突破を決める!。2)メンバーを落として、控え中心のスペインに日本が引き分ける。 3)ドイツが意地を見せ、最終戦でコスタリカに勝つ。
これで、スペイン・・・勝ち点7、日本・・・勝ち点4、ドイツ&コスタリカ・・・勝ち点3
でOK! まだいける!


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