Integrated Resort インテグレーテッド リゾート

佐藤亮平の VIVA! IR!!

IR推進法案や各地の誘致の動きから、エンターテイメントとしての魅力まで。
Integrated Resort(統合型リゾート)とは何か?を様々な角度から、専門記者がレポートしていきます。

佐藤亮平 Profile

民間でのIR誘致調査に従事したのち、2011年よりカジノ・IRの取材を開始。専門誌「カジノジャパン」記者、IRの政治・経済情報ポータルサイト「カジノIRジャパン」記者を経て、現在フリー。

#45 「闇カジノ問題」について橋下徹前大阪市長がテレビでコメント 2016/04/25

先週18日の夜、「橋下×羽鳥の新番組(仮)」(テレビ朝日系23:15~)という番組で、橋下徹前大阪市長がいまメディアで話題になっているリオオリンピックのバトミントン選手として出場予定だった桃田賢斗選手の「闇カジノ」問題についてコメントしていました。

番組ではまず「桃田選手がオリンピックに出られなくなったのは“やりすぎ”」という街の声を紹介していました。それを受けて橋下氏は法律家としての視点から、何か不祥事を起こした時に制裁は当然とひとこと前置きしたうえで、「(日本では)罪と制裁とがバランスを保つ“罪刑法定主義”が大原則」と説明。実際に「単純賭博罪」は刑法において「50万円以下の罰金」と規定されており、刑務所に収監されるほどの重い罪ではありません。橋下氏は冷静に見てほしいとしたうえで、「二十歳直後という年齢を前提にすれば、僕は五輪に出るべきだと思う」と話していました。

日本テレビ「行列のできる法律相談所」で過去に橋下氏と共演していた北村晴男弁護士も15日のデイリースポーツオンラインのインタビューで、「一般的に賭博罪は現行犯でなければ立件しない」と応じていました。北村氏によると、現行犯以外でも立件のケースはあるにはあるものの、極めて少ないそうです。昨年末からあれほどマスコミを騒がせた野球賭博問題も、現時点ではまだ立件されていません。

この背景には、日本独特のギャンブル事情があると考えて良いと思います。日本国内でカジノが禁止されているといっても、海外旅行などで立ち寄ったカジノに参加することは違法ではありません。桃田選手も記者会見で、海外のカジノがきっかけだったことを明らかにしています。これは、刑法の賭博罪が「属地主義」すなわち賭博行為が行われた場所を起点に判断しているためです。つまり、現地でカジノが合法化されている場合、日本国刑法の賭博罪の規定は及ばないので、カジノに日本人が参加することは「海外では合法」「日本では違法」という状態です。

また、国内ではカジノは禁止されているものの、同じギャンブルであって「ゲーム種目の違いしかない」公営ギャンブルや宝くじ、パチンコは日本国内にあふれています。競馬や競輪がOKでカジノがNOという理由は、国内では一般にギャンブルを禁止するという建前があるものの、実際には別途「特別法」すなわち「競馬法」「自転車競技法」といった種目ごとに法律を定めて合法としている訳です。一方では合法化し、他方では禁止されたままで、さらに法律的に換金がグレーであるパチンコ・パチスロもあるので、ギャンブルに対する法的整備は全然進んでいないということです。これは法律だけでなく社会的理解も同様で、ギャンブルを趣味とする人がいる一方で、「ギャンブルなんかけしからん」と顔をしかめる人もいます。

日本ではカジノが禁止されていることが闇社会の資金源にすらなっています。「禁酒法」でアル・カポネ率いるギャングが大儲けした時代と全く同じ状況です。海外に年間1,600万人の日本人が出かけている時代の中で、さらにギャンブル種目ごとにちぐはぐの対応を取っていることが、違法カジノを生む温床になっているんですね。マンションの一室で違法カジノをオープンしても客が集まる訳ですから、いくら警察が取り締まりを強化してもモグラたたきのようなもので、根絶するなどというのは現実的ではありません。「禁止からコントロールへ」というのが多くの国の考え方で、130ヶ国以上の国がカジノを合法化していることもそういった理由からです。

桃田選手らは今回の事件でもう懲りたと思いますが、もしそれでもやめられない場合、ギャンブル依存症の疑いがあるため、きちんと医師や自助グループへ相談した方が良いでしょう。私は取材を通じてギャンブル依存症から回復し、社会で広く活躍している人たちも見てきました。言うまでもなくオリンピックで日本代表の座を勝ち取るというのはものすごい才能、またたゆまぬ修練の成果なのだと思います。たとえ一度つまずいてしまったのだとしても、社会としてただいたずらに揚げ足を取ることに終始するのではなく、本人が回復につながるように暖かく見守ることが重要です。

#44 「マリーナベイ・サンズ」がデビッド・ベッカムを起用したキャンペーン 2016/03/31

シンガポールのランドマークとして知られる「マリーナベイ・サンズ」は、4月1日より日本国内のビジネス・レジャー利用に向けた“Never Settle”(とどまることを知らない)キャンペーンを展開します。キャンペーンでは世界的スターとして根強い人気を誇るデビッド・ベッカムを起用するそうです。

マリーナベイ・サンズには、国際会議場などの大型MICE施設、2,560室のホテル、東南アジア最高クラスのショッピング、有名シェフのレストラン、エンターテイメントを楽しめる2つの劇場、アートサイエンス・ミュージアムなどがあります。最も有名なものは最上階(57階)にあるシンガポールを展望する「サンズ・スカイパーク」でしょうか。そちらは2010年の開業直後、日本の国民的アイドルグループを起用した大手通信企業のCMの収録が行われて話題になりました。

日本国内のIR導入可否をめぐる議論を見ると、ネガティブなイメージに偏っているきらいがあります。特に、これまでこちらの過去のコラムで何度も扱ってきたギャンブル依存症の問題では、議論が進んでいない割にイメージばかりが先行しています。一方でIRのエンターテイメントとしての魅力については、ほとんど光が当たってきませんでした。

マリーナベイ・サンズの社長兼CEO(最高経営責任者)のジョージ・タナシェヴィッチ氏は、「過去5年間、当リゾートに海外から訪れるお客様の中で最も多いのが日本人です。日本の皆様が求める、ユニークなレジャーやエンターテイメントサービスを提供している証であると、自負しています」と話しており、シンガポール政府観光局によると、2015年に789,000人の日本人がシンガポールを訪れたそうです。

エンターテインメントの分野では、すでに歌舞伎役者の市川海老蔵さんや滝沢秀明さんのアジア初公演も行われており、有名日本人シェフによるレストランもオープンしています。IRについての正しい理解が進む良いきっかけになるといいですね。

(写真)マリーナベイ・サンズ提供

#43 訪日観光客数目標を2030年に6000万人に 安倍首相「観光産業を基幹産業へ」 2016/03/30

30日、政府の「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」が官邸で開催されました。訪日外国人観光客数を従来の「2020年に2000万人」の目標から倍の「2020年に4,000万人」「2030年に6,000万人」へと引き上げることを決定。会議に出席した安倍総理は挨拶の中で、観光について「成長戦略の大きな柱の一つ」「地方創生の切り札」「GDP600兆円に向けた成長エンジン」と位置づけました。

構想会議には議長に安倍首相、副議長に菅義偉官房長官および石井啓一国土交通相、構成員には麻生太郎副総理含め8名の大臣のほか、小西美術工藝社のデービッド・アトキンソン社長など民間有識者が名を連ねています。構想会議は年間2000万人達成が視野に入った2015年11月にスタートしています。

前回、前々回のコラムで触れてきたように、今月25日の菅官房長官の「(観光立国を目指す日本にとって)IRは欠かすことができない」発言は言わずもがな。ここ最近の動きは風雲急を告げるといった感があります。IRは観光振興の切り札として位置付けられていますが、政府が観光振興を「大きな柱」「切り札」「成長エンジン」と重要視することは、IR推進法案に強い追い風になるでしょう。

(写真)会議の模様 首相官邸ホームページより引用

#42 IR議連幹部会が開催され、関西経済同友会がプレゼンを行いました 2016/03/29

29日、国会内にて「国際観光産業振興議員連盟」(IR議連)の幹部会が開催されました。今回の幹部会には自民党、公明党、民進党、大阪維新の会、日本のこころを大切にする党の各党から約10名の国会議員が参加しました。今回のテーマは、①関西経済同友会が今月はじめに発表した大阪・関西の経済効果の試算についてのヒアリング、②議連の今後の活動について、の2点です。

関西経済同友会からは講師として、齊藤行巨事務局長が出席。同友会の内部に設置されている「関西MICE・IR推進委員会」が今月2日にまとめた大阪・関西IRの経済効果の試算について説明を行いました。同友会では昨年1月「大阪・関西らしいスマートIRシティ」の構想コンセプトを発表するなど長年にわたり調査・研究を続けており、構想の発表と同時にギャンブル依存症に関する提言を行っています。

観光客数等や各種マーケティングデータをもとに試算すると、大阪ベイエリア・夢洲のIRでは年間ビジネス収入が5,545億円、投資規模は6,759億円。経済効果は開業前・開業後に分け、開業までの累計で1.5兆円・9.3万人の雇用、開業後では年間7,596億円・9.8万人の雇用創出効果が期待できるとしています。

約8,000億円の投資と聞くといささか大きすぎるように感じるかもしれませんが、議連の方針では日本国内のIR設置数は当初2~3カ所で試行し、プラス・マイナスの効果を検証しながら最大で10カ所程度まで拡大していくとしています。これは、アメリカでは約1,200ものカジノ・IR施設が存在することと対照的です。日本にはパチンコがあるため単純な比較は難しいとの声もありますが、IRの施設数で考えると日本の経済規模から比較すると寡占状態と言えるほど施設数が少ないということです。実際にオペレーター(カジノ事業者)は世界最後の市場として有望視しており、1兆円投資するとの声も上がっており、大阪ベイエリアという立地を勘案しても妥当なのではないでしょうか。

ギャンブル依存症について同友会の昨年の提言では、海外のカジノ・IR業者の例に倣ってIR運営業者が対策費を拠出するとしています。日本でギャンブル依存症が問題になっている背景は、海外のように予防・対策が行われてことが一番の原因です。ちょうどこちらの過去のコラムで取り上げた「レスポンシブル・ゲーミング(ギャンブリング)」の概念ですね。日本でもようやく進みつつありますが、今後は既存のギャンブル産業の見直しは進んでいくことになるでしょう。同友会は引き続き、ギャンブル依存症など社会問題について研究調査を継続し、さらなる提言を行う予定です。

議連幹部会では今後の方針として、①各党からさらに役員を募っていくこと、②今年5月の早いうちに議連総会を開催すること、③総会で「今年秋に法案の成立を期す」とのメッセージを示すこと、の3つの方針が確認されました。また、IRがテーマとなった今月25日に開催された衆議院内閣員会の模様として、先週の内閣官房IR特命チーム凍結報道が改めて否定されていたことが報告されました。さらに同委員会における菅義偉官房長官の「(観光立国を目指す日本にとって)IRが欠かすことができない」「(IR推進法案が)成立した暁にはすぐに対応することができるような状況はしっかりと作っておく」との発言が紹介されました。

先週の一部報道では関係者の間に大きな衝撃が走りましたが、それを受けて政府からIR推進に向けた強い意欲が表明されたことになり、IR推進派にとっては「災い転じて福と為す」といったところでしょうか。IR推進法案の審議は参院選後に持ち越される方向ですが、国会質疑を通じて政府の前向きな姿勢が示されたことから、法案成立後を見据えた環境整備として地方・民間の動きは加速していくことになりそうです。

(写真)「大阪・関西らしいスマートIRシティ」 関西経済同友会提供

#41 「IR特命チームの凍結報道」について、内閣官房へ直接聞いてみました 2016/03/24

22日の報道で「内閣官房のカジノ検討チームが業務を凍結する」という趣旨の記事が出ました。これまでの私自身の取材と照らし合わせて違和感があったため、その内容について内閣官房へ照会をかけてみました。

報道では「業務を当面凍結する方針」「事務室は近く閉鎖」という表現がみられましたが、担当者は業務凍結について「凍結ということではなく、何か決定したということでもない」と話していました。このほか、別の国会関係者に意見を求めたところ、こちらからも「閉鎖という可能性はないのでは」と疑問の声が聞かれました。

そもそもIR推進の特命チームは、2014年6月に閣議決定された「日本再興戦略」(新成長戦略)において「統合型リゾート(IR)については、(中略)関係省庁において検討を進める」との表現が盛り込まれたことをきっかけとして発足しています。新成長戦略では「観光振興、地域振興、産業振興等に資することが期待される」という表現とともに、「犯罪防止・治安維持、青少年の健全育成、依存症防止等の観点から問題を生じさせないための制度上の措置の検討も必要」との文言も盛り込まれており、特命チームはIRによって生じるプラス面・マイナス面双方の検討を進めているわけです。

ここから先は私見になりますが、IR推進法案の審議が昨年持ち越されたことで内閣官房の検討作業が先行していることも明らかで、定例人事異動で増減する可能性はあると思います。関係者の間では配置転換で減少するのではないかという観測もあることも確かですが、これを掘り下げると「凍結」という表現よりは「検討作業の山場を超えた」と見るのが適切。これまで段階的にチームが大きくなってきたことの揺り戻しにすぎません。実際、これまでも発足後の増員という事実はあった一方でニュースとして報じられることはなく、私もこれに絞って取材しようとは思いませんでした。もちろん特命チームが廃止されるなら話は別ですが、「人員が増えた」「減った」というだけでは私は特に報じる必要性は感じないということです。事務所の閉鎖という話も同じことで、人員規模が変われば今のスペースから移転することは当然のこと。要は定例の人事異動で適材適所に移る可能性があるというだけで、こちらも驚くべきことではないと思います。

一方で「内閣官房」「業務凍結」「事務所閉鎖」という表現は、その言葉だけが独り歩きしてしまうほど、強いインパクトが含まれています。現に電子版が出たわずか10分後から、さっそく驚いた関係者からなぜか私のところにまで照会がかかってきました。政府の動静を見定めるという点と、ちょうど年度末という時期も手伝って、関係者がこの手の情報に関して神経をとがらせているためです。

報道された政府高官によるコメントは、実際にあったものと考えて良いでしょう。また、現場に情報が下りていないだけで、今後事実になるという可能性も否定できず、「凍結する方針を固めた」という強い文言が気になることも確かです。ただし、他社が続かなかったことから記者会見における正式な発言ではなく、オフレコの独自取材として読むことになります。その上で記事内容を政府発と記者の見解とに分類していくのですが、見出しは基本的に記者とは別の人間が付けているため、そこも分けて考えます。さらに、ぶら下がりでの発言は記者会見と比べると往々にして憶測も混ざることもあるという点も念頭に読み解いていきます。

今回の報道は社会的関心の表れ乃至ひとつのニュースとしての価値は十分ありますが、ここで紹介したように現場レベルでは困惑が広がっていることに加えて、他紙の後追い記事も見られません。そのため、関係者が各種判断を下す材料とするには不明瞭で、それには4月初めの人事異動や、さらなる続報での検証を待った方が賢明という判断になるかと思います。

日本の報道はどうしても人目を惹くであろう内容が過度に強調される傾向があるため、読み手側はそういうものとして、そこから割引いて読む技術も必要になってきます。一方で今回の件は、IRというテーマが社会の関心を惹くテーマとなっていることの現れでもあり、それ自体は結構なことだと思います。私はメディアリテラシーとして考えさせられる記事だと感じましたが、皆さんはどうご覧になりましたか。

#40 鳴門のミニフォーラムで考える「カジノと健康」 2016/03/07

鳴門IR健康保養誘致協議会は3月5日、鳴門市内でミニフォーラムを開催しました。徳島県内では日本カジノ健康保養学会が10年以上にわたって地方型カジノの誘致運動を展開。昨年9月には同学会のほか鳴門商工会議所、鳴門市うずしお観光協会、鳴門青年会議所、鳴門法人会などが結集するかたちで「鳴門IR健康保養誘致協議会」が設立されています。

今回のミニフォーラムのテーマは「カジノと健康」。日本カジノ健康保養学会の中西昭憲会長は、70枚におよぶスライド写真を見せながら、緑に囲まれた古くからのカジノ保養地として有名なドイツ・バーデンバーデンの街づくりを紹介。学会が提唱している「カジノ健康保養システム」の紹介がなされました。

ドイツ語圏ではバーデンという言葉を含む歴史あるカジノリゾートが多く存在します。Badenとはドイツ語で「温泉」を意味し、諸外国では日本のようにどこで穴を掘っても温泉が湧くということは極めてまれです。そのためヨーロッパ諸国の温泉保養地は王侯貴族に独占され、遠方からの訪問客が持て余した時間を過ごすレクリエーションとしてカジノが好まれました。これを現在の日本に置き換えると、諸外国から来日した富裕層が観光地訪問や文化体験などを楽しむかたわら、空いた時間でゲームを楽しむということになるでしょう。実際に日本ではナイトエンターテイメントの種類が乏しく、深夜便で日本に到着した外国人が行き場を失っているということが起きています。

インバウンド増の影響もあり、現在東南アジア諸国などから日本の高い医療技術を求めて、検査や手術を目的に来日する医療ツーリズムも増えてきています。現状では患者はほとんどが高所得者層で1週間以上の滞在。医療費のほか本人および同伴者の渡航費、宿泊費などを含めると1回の渡航費で数百万円以上という例も多く、その経済波及効果は莫大なものになります。地方では医療機関があってもラグジュアリークラスのホテルなどは極めてまれで、老若男女、病人やけが人でもハンデなく楽しめるカジノ・IRは医療ツーリズムとの相乗効果も期待できるわけです。

精神科医でもある中西氏はフォーラム開催後、「海外富裕層向けのメディカルツーリズムとしても意義があり、税収を街づくりに充てるシステムとしてカジノが街と調和している」と話していました。カジノ・IRの議論に縁がなかった参加者からは「マカオ・シンガポールとは異なる魅力があり驚いた」との声も上がったそうです。

セミナーには国際観光振興議員連盟から細田博之会長、岩屋毅幹事長、萩生田光一事務局長の連名による祝電が届き、鳴門での活動に対して議連として感謝の意が伝えられました。その中で法案については「遅くとも今年中の成立を目指し、調整を続ける」と従来よりも一歩踏み込んだ決意表明がなされました。セミナーの模様は地元ケーブルテレビなどで放送されたそうで、地元での理解がさらに進むものと思います。

(写真)当日の会場の模様 鳴門IR健康保養誘致協議会提供

#39 JAPICがセミナー 岩屋氏・観光庁田村長官・アトキンソン氏らが議論 2016/02/23

一般社団法人日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)は17日、都内で「『観光立国ニッポン』実現のみちすじ」と題したセミナーを開催しました。基調講演には小西美術工藝社代表取締役社長のデービッド・アトキンソン氏が登壇。また、特別ゲストとして国際観光産業振興議員連盟幹事長の岩屋毅衆議院議員が講演したほか、パネルディスカッションには観光庁の田村明比古長官はじめ観光分野の有識者が加わって議論を交わしました。

JAPICは地方創生や国家戦略などの分野におけるさまざまな課題について、産官学および民間のネットワークをもとに革新的な提案を行っている団体です。IRに関しても膨大な蓄積があり、石原慎太郎東京都知事(当時)がお台場カジノ構想を提案した1999年に、内部に「複合観光事業研究会」を設置。米国や欧州、オセアニア、アジアのカジノ・IRリゾートの視察調査を実施し、その調査報告は現在のIR推進法案の議論の土台になっています。今回のフォーラムは「複合観光事業研究会」と「ヒト・モノ・カネ呼び込み戦略委員会」との共催というかたちで開催されました。

イギリス出身のアトキンソン氏はゴールドマン・サックス証券取締役を経たのち、文化財の修復を手掛ける小西美術の社長に転身した異色の経歴の持ち主。講演では日本の観光について自然・気候・歴史文化・食事といった観光資源に加え、海外と比較して「多様性」が武器になると話していました。フランスは世界第1位の外国人観光客数を誇る国として知られていますが、地中海には温暖な気候を生かしたビーチリゾートがある一方で、ヨーロッパ最高峰のモンブランでは登山も楽しむことができます。アトキンソン氏は日本の観光資源も世界有数の多様性を有しており、現在の日本の潜在的な外国人観光客数を試算すると5,600万人に及ぶそうです。さらに2030年には全世界の観光客数が現在の1.5倍程度増えるため、客単価を上げて増加分を抑えることを考慮しても、2030年の日本の観光客数受け入れの潜在能力は8,200万人まで上昇。すなわち、日本の観光産業の現状というものは、観光資源の多様性に恵まれているものの、観光客受け入れの潜在的能力を生かし切れていない状態ということになります。

続いて登壇したIR議連の岩屋毅幹事長は、日本の成長性として一番有力なものは観光分野であると強調。国会日程はタイトなものの、「今年中の推進法案成立に向けて環境整備をしっかりと行っていきたい」と発言。衆議院予算委員会で平成28年度予算案が通過の目途が付き次第、ただちに役員会を開催したいとの意向を示しました。

パネルディスカッションでは観光庁の田村長官が2015年の速報値で観光産業市場が3.4兆円を超えて過去最高を記録したことに触れ、「輸出製品として見ると自動車製品と同じくらいの額」と日本経済における観光産業の存在感が増加していることを指摘していました。また、ヒト・モノ・カネ呼び込み戦略委員会で委員長を務める森ビル都市企画(株)山本和彦代表取締役社長は、都市部の六本木ヒルズのほか、香川・岐阜・福井でのプロジェクトを紹介。ロードサイドでチェーン店の進出が続いている状況に触れ、既存中心街の活性化の意義を指摘。また、プライスウォーターハウスクーパース株式会社パートナーの野田由美子氏も、既存の観光資源を磨き、ないものを足して再構築することで8,200万人も夢ではないと話していました。

主催者によると今回のセミナーには約230名が出席したそうで、関心の高さが伺えました。世界の観光産業を見ると、シンガポールがIR導入後の5年間で外国人観光客数を1.5倍に増加させた例など、観光産業振興の切り札としてIRの導入が有効であることが実証されています。言うまでもなく観光産業は数少ない成長産業で、2030年に18億人まで増加する外国人観光客をいかに日本へ引き付けるかということは、今後の日本経済の成長性につながってくることになります。観光産業の切り札としても、IRの議論がさらに進んでいくといいですね。

#38 ハウステンボスで「ロボットカジノ」 西九州統合型リゾート研究会総会 2016/02/18

「西九州統合型リゾート研究会」は16日、ハウステンボス(HTB)のレンブラントホールにて定期総会を開催しました。HTBへのIR誘致活動は長崎県・佐賀県・福岡県の経済界関係者を中心に、2007年より観光活性化に向けた取り組みの一環として取り組まれてきました。当日は研究会会員のほか、地元市民、マスコミ関係者など、約100名の参加者が会場を訪れました。

HTBでは2015年7月に最先端技術を活用した「変なホテル」が開業。ロボットを宿泊分野へ活用したことが話題となったほか、輻射パネルなどの技術導入によって冷暖房のコストを削減。特に人型や恐竜型のロボットが宿泊客を相手にチェックイン手続きを行う様子はとてもユニークで、テレビや雑誌などでも多く取り上げられました。一方、ハウステンボスを擁する長崎県・佐世保市エリアは、官民一体となった誘致活動が長期にわたって展開されてきたエリアとしても知られています。

今回のイベントでは「ロボットカジノ」と題して、ロボットが模擬カジノのディーラーをサポート。ルーレットテーブルでは「ノーモアベット」とチップを賭ける終了の合図の掛け声を上げ、そのユニークな動きに参加者も思わず顔をほころばせていました。

講演を行った大阪商業大学の美原融教授はイベント開催後の取材で、「将来のカジノとしてのPR効果も大きく、話題性の提供という観点でもとても面白い取り組み」とコメント。主催関係者も「説明会などを開催してきたが、IRに関して新しい可能性を提案していきたい」と話していました。また、ロボットとカジノという組み合わせには報道機関の高い関心を引き、長崎県内の全てのローカルテレビ局・地方紙で取り上げられました。

HTBでは今年の夏には「ロボットの王国」のコンセプトのもと、ロボットが店長や料理長をつとめる「変なレストラン」、さまざまなロボットを体験できる「ロボットの館」をオープンする予定。“ロボットとIR”のコンセプトは世界でも例がなく、ハウステンボス独自との取り組みとして今後も関心を集めることになりそうです。

(写真左)ロボットがルーレットディーラーをサポート。西九州統合型リゾート研究会提供

#37 パチンコ依存症を扱った映画「微熱」が2週間限定で上映中 2016/01/13

1月22日までの2週間限定で渋谷ユーロスペースにて開催されている「全力映画祭」で、ギャンブル依存症をテーマにしたショートムービー「微熱」が上映されており、私も見に行って参りました。

映画では、若い夫婦と幼い娘の3人の家庭が、夫のパチンコ依存症によって転落していく過程が丹念に描かれています。テンポの良い映像として表現されていることで感情移入しやすく、転落していくストーリーが決して他人事ではないと感じられることから、思わずスクリーンから目が離せなくなります。

精神科医で作家の帚木蓬生氏の「ギャンブル依存とたたかう」(新潮選書・2004年)という本の冒頭に「ある主婦の『転落』」という悲劇の物語が描かれており、ふとその内容が脳裏に浮かびました。ギャンブル依存症問題について勉強するなかで読んだ一冊でしたが、こちらもパチンコ依存症の主婦の心境が緻密に描かれ、私自身もこの本で大きな衝撃を受けたことが現在の取材の原点のひとつになっています。「微熱」ではギャンブル依存症者の心境や家族の風景がリアルな映像として表現されているためそれ以上に心に刺さるものがあり、依存症についての事前知識の有無に関わらず映画を観た観客も大きな衝撃を受けるだろうと思います。

周囲にギャンブル依存症者がいない場合、依存症についての本や記事を読んだとしても本人や家族の苦悩というところまではなかなか理解することが困難で、「自分には関係ない」とどこか他人ごとのように捉えてしまいがちです。映画ではナレーションがなく役者同士の会話も少なめですが、カメラがギャンブル依存症者本人やその家族の視点に置かれ、彼らの心境が生々しく表現されています。たとえば「会社の金に手を付ける」という場面。ギャンブル依存症で横領と聞いただけでは「いくらギャンブル依存症でもそこまではしないだろう」と思ってしまいがちですが、映画を見ると「こういう状況ならやってしまいかねない」と背筋が凍る思いがしました。

小澤雅人監督に話を伺ったところ、ご自身もギャンブル依存症の家庭で育ったそうで、「自分がギャンブル依存症だということに気づけないと、悪い循環から抜け出せない」と話していました。監督はこれまでも社会問題にスポットを当てた映画を手掛けており、「微熱」も第14回イマジンインディア国際映画祭でベストショートフィルム賞を受賞しています。ギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子代表も「パチンコ依存症者やその家庭のリアルが描かれており、その現実を知ってほしい」と話していました。

前回までのコラムで海外カジノ産業における「レスポンシブル・ゲーミング」(賭博産業の企業責任)について書いてきましたが、映画「微熱」は日本で啓発が遅れている現実についても私たちに突きつけてくれた気がします。ギャンブルの楽しさと表裏一体にある依存症問題について、あらためて考えさせられる映画です。

「全力映画祭」は今月22日までのレイトショーで、小澤監督のトークショーも予定されています。興味のある方は是非ホームページで上映スケジュールをチェックしてみてください。

(写真)「微熱」で第14回イマジンインディア国際映画祭ベストショートフィルム賞を受賞した小澤雅人監督

#36 パチンコの釘調整問題で考える「責任あるギャンブル産業」の在り方 2015/12/25

12月24日、新聞・テレビ等の報道各社がパチンコの釘調整問題について、一斉に取り上げ始めました。各社の報道を見ると表現の共通点が多く、記者クラブを通じて発表がなされたものとみられます。ギャンブル依存症問題の関連テーマとして今回はパチンコの釘調整問題についてスポットを当ててみます。

パチンコ店に置かれているパチンコ台の釘に関して、法令において「おおむね垂直であること」との規定が置かれています。一方で金属の釘は用意に曲げることが可能であることから実際には釘調整が広く行われており、これは法的にグレーゾーンです。パチンコ・パチスロは製造にあたって「射幸性(当たりやすさ)」に焦点を置いた型式検定試験を通過する必要があり、試射試験では一定時間内の出玉数が所定の範囲内に収まらなければなりません。しかし釘調整で射幸性を高め、本来は検定を通過できない射幸性の高い機械を生み出す「釘曲げ」も蔓延していました。今回の問題はこの過度な「釘曲げ」行為が出荷段階で行われたことが問題視され、警察庁が業界団体に対して撤去を要請する騒ぎになりました。

この背景には、レジャー産業の多様化にともなうパチンコ市場の縮小による、パチンコ店同士の競争激化というパチンコ業界が抱える構造的な問題があります。言い換えればパチンコ店・機械台数の供給が、縮み続ける需要・すなわちファン人口減少のペースに追いついてこなかったということです。釘調整によって射幸性を過度に引き上げ、客単価を上げて利益を確保することで参加人口の減少をカバーしてきており、これは「射幸心(ギャンブルで大当たりしたいという欲望)」をあおってきたということと同義です。結果として多くのギャンブル依存症者を生み出してしまい社会問題化しており、これが昨年行われたIR推進法案の国会質疑をきっかけに一気に表面化していました。

パチンコ業界における大規模な機械の入れ替えは、今回が初めてではありません。今から10年ほど前のことですが、警察庁の主導によりホールに設置されていたパチスロ(4号機)のいわゆる「爆裂機」を3年間の移行期間を設けて新たな基準に基づく「5号機」に全台入れ替えたことがあります。一般にはあまり知られていませんが当時と現在とで入れ替えの背景について考えてみると、いずれも政府や与党内でカジノ合法化が政策として浮上していた時期と重なります。実際に当時もカジノ合法化議論の中で推進派の国会議員からパチンコの換金問題などについて警察庁を問いただす場面が見られ、今回も警察庁が監督官庁としてカジノ・IRの法案が国会で議論される前に、射幸性を高める主な要因となっている釘調整問題について手を打ったと考えるのが自然でしょう。

前々回(#34)のコラムでも簡単に触れましたが、海外のカジノ先進国では「レスポンシブル・ゲーミング(または、レスポンシブル・ギャンブリング)」という言葉があります。この概念は、ギャンブル産業が射幸性に基づく産業である以上、産業として一定の社会的責任を果たすべきという考えです。その一端としてギャンブル依存症予防・ケアへの資金の拠出などがあるのですが、日本では「自己責任」として、現状では依存症者本人や家族の負担になってしまっており、これは見直す必要があります。IR推進法案にもその趣旨の規定が盛り込まれていますが、カジノがまだ存在しない日本でギャンブルに関連した社会問題が発生している以上、既存のギャンブル産業もレスポンシブル・ゲーミングに倣って、相応の負担を負うべきでしょう。言い換えれば、現状は依存症対策が満足に行われていないために、社会問題になってしまっているわけですね。

さらに今回の一連の報道が出た背景として「ギャンブル依存症問題を考える会」の活動の影響も大きいと見ています。先月末、都内で開催された考える会のフォーラムにはギャンブル依存症に苦しんだ経験を持つ元大関貴闘力関や与野党の国会議員を迎え、多くのテレビや新聞などの多くの報道関係者が詰めかけていました。そのフォーラムの席においても、国会議員らを前にギャンブル依存症問題のほか、釘調整問題について問題視する声が上がっていました。

個人的には、ギャンブル産業全体にとっても近代化を進める良い機会になると考えています。今年もつい先日までテレビなどで年末ジャンボ宝くじのCMがバンバン流れていましたが、やたらと当選金額を強調したCMを見るたびにいつも「これはいかがなものか」という思いが浮かびます。日本では宝くじはギャンブルではないなどと言う識者もいるようですが、賭博とは「①偶然の事象に②金銭を賭して③勝敗の結果で財物を手に入れる遊興」のことなので、本来は宝くじもギャンブル産業として適切な規制がなされるべきです。もちろん、競輪や競馬などの公営ギャンブルも適切な規制が必要ということはあえて言うまでもありませんが、それらもカジノ・IRの議論が深まるたびにだんだん俎上に上がっていくことになるでしょう。

日本ではレスポンシブル・ゲーミングが浸透していないため対策がおろそかになっており、結果としてギャンブル産業の社会的評価がいつまでも高くならない遠因となっています。今回のパチンコ釘調整問題は、カジノ・IRの議論という黒船によって既存のギャンブル産業も変革せざるを得ない場面に直面したひとつの事例ということです。

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